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 『借金大王』
 ウルフルズ

 
1994年(平成6年)

意外と薄情だったんだなあ
と思った。
それが多分一番、私を傷つけた。
(甘ったれ末っ子(35))

全部忘れてやるから、
そのかわり今すぐ全額


全然ウツクシイ話じゃないですし、
ハッピーな話でも無いのですが、
件の(下記参照)彼と距離を置いてしばらくした頃、
友人とカラオケに行った時、
あんまり楽しく歌えたのを思い出したので、
恋歌ということでお願いします。

さて、大袈裟な話をします。

彼はハタチの私にとって、所謂ハジメテの男で、
私は恋多き彼にとって、
1ダース目の女だった
(ひとつ年上なだけだったのに、どんなスパンだ)。

ちょっとフクザツな家庭環境の貧乏青年に、
実家暮らしの甘やかされ末っ子が
お金を渡し始めるのにあんまり時間はかからなかった。
当時フリーター(派遣社員)の小娘、
自由になるお金はすぐそこをついたし、
銀行のローンなんて勿論組めないし。
金利グレー(当時)のローンカード3枚、
ぐるぐる自転車操業。

お約束の愁嘆場を何回も何回も何ッ回も
馬鹿みたいに律儀に演じて、
楽しい事だってたくさんあったはずなのに
全部塗りつぶされたみたいになって、
そうして、カード限度額が全て一杯になのが
普通になったところで、『あ、これ限界だな』と。

吃驚するくらいすとん、自覚したから、すぐ電話をして、
もう出すおかねは無いよ、と酷く冷静に伝えた。
彼はそれまで通り、わかったといって、
今までありがとう、といって、
いつものように、涙を流した。
いつもなら、一緒に泣いたのに、
そのとき私は泣かなかった。
ちらりとも目を潤ませたりしなかった。
しょうがない男、とか思ってた。
意外と薄情だったんだなあと思った。
それが多分一番、私を傷つけた。

好きだったし、愛してた。
だけど私は、私の家族に迷惑をかけたくなかった。
愛されて、甘やかされてたから。
彼と彼の家族の為に、
自分のものはなにひとつ捨てられなかった。
必要とされて、(多分)愛されてたのに。

それからも、直接顔は見なくとも、
電話やメールで、気を使わない、
何を言っても何をしても許される楽チンな距離を保って。
そのうちまた、彼が、
お金を都合して欲しいと言いだした。
私は幸運にも正社員になっていて、
月々決まったお給料、ボーナスは年2回、昇給は年1回、
そういう恵まれた環境にいた。
借金も返し終わってた。

だから彼の言う金額を出すことは可能だった。
彼の懐を、腹を満たす、
簡単便利な魔法の呪文を唱えてあげることは出来た。
だけどそのあとに必ずやってくる言い訳とか、
泣きごととか、そういうのが全部、面倒くさくて断った。
無理じゃないのに、無理だと言った。
好きだったのに。大事だったのに。
彼がお腹をすかせて倒れてしまうかも知れないのに。

年が明けてしばらくして、あけおめメールが来た。
当たり障りのない事を言い合って、それっきり。

‥‥長くなってしまいました。
全部、大袈裟に過ぎる話です。
借金は大した額では無かったし、
私自身、そう切り詰めた生活を
強いられたわけでもありません。

彼は今どうしてるでしょうか。
私みたいなのを捕まえて、
それなりに楽しくやっているんじゃないかな、
と思っています。
それとも何らかの奇跡がおきて、
あるいは努力が実って、
堅実な生活を営んでいるでしょうか。
40歳までに全額返す計画をたてた、
とか嘯いてた時期があって、
そういうとこが、もう本当に本当にほんとーーに、
腹の立つ男ですが、
腹を空かせて倒れていなければいいな、
と彼の懐を温めもせず、身勝手に祈るばかりです。

彼が好きだった。大事だった。今も。

彼とのあれこれを思い返しては、
恥ずかしくて頭を抱えたり、
未だに、今だからこそ、本気で腹をたてたりする。
貸しはたくさんある。
借りも、まあまあ、ある。

多分、おかねはかえってこない。

だからきっと、
ぜんぶ、わすれてやれないだろう、恋心以外は。

(甘ったれ末っ子(35))

わー。ぱちぱちぱちぱち。
なんだかわかんないけど
この投稿大好きです。

いま彼が
「それなりに楽しくやっている」
んじゃないか、というのは
たぶん当たってると思います。
なぜだかそうあってほしいと
思わせる男ですよねえ。
知らない人なんだけど。
あんまり楽しくなかったとしても
「腹を空かせて倒れていなければいい」、
そうだそうだ。
腹さえ満たせればね。

「借金大王」じたいは
恋の歌じゃないんだけど、
投稿を読んでからあらためて
歌詞を読んでみたら、
なるほどなるほど、でした。

ほんと、痛快な投稿。
(とくにラストの1行!)

このコンテンツにこのタイプのお話は、
たぶんはじめてですよね。
お金がからんだ恋の思い出っていうのは。
実は「恋」にとって
たいへん重要なことがらであるはずなのに
あまりここで触れられなかったのは、
「思い出という物語」に登場するアイテムとして、
それはちょっと生々しすぎるからなのかもしれません。
だってたとえば、
『チッチとサリー』がサイフを開いて
何かの支払いをしてる場面は、
あまり見たいと思いません‥‥よね?
ところがこのかたは、
それをスカッと正直に書いてくださった。
明るく。

こういう経験がある人が、
カラオケで『借金大王』を熱唱。
ココロのこもり方が違いますよねぇ。

♪貸した金返せよ〜〜!

あのさ、お金貸してくれる?
って言われたこと、わたしもあります。
彼氏じゃなかったので
「それはちょっと」
「だよねー」
で済みましたけども。
彼の場合は知り合ってすぐのことで、
ほうぼうでそう言ってる感じでした。

あの子、いまどうしてるかな。
いまでも少し心配になります。
印象が、金銭的なことだけに、たしかに深い。

私は
「貸しはたくさんある。
 借りも、まあまあ、ある。」
というところが、大好きです。

別れ話をしたあとに
「じゃ、お金はどうする?」
と言われたこともあります。
それって正しい、と思ったなぁ。

ああ、『借金大王』という歌が
恋歌として成立するだなんて
誰が思ったでしょうか。

しかし、この恋のテーマ曲は、
『借金大王』以外、ありえません。
すばらしい。なにしろ、投稿がすばらしい。

きっと、この方の「視線」がいんでしょうねぇ。
美化も卑下もせず、
当時の弱さもいまの強さで平たく語る。
ちょっとしたデフォルメは
どちらかというと伝えるときのサービス。
おかしな言い方ですが、
仕事ができる人なんだろうなぁ。

ウルフルズは中くらいに好きなバンドなのですが、
『借金大王』はいちばん好きな曲です。
歌も詞もいいんですが、
なにしろ「4人の演奏」がいい。
そのカラッとした演奏、
ざっくりしているようでいて
じつは実力に裏づけられた高品質な演奏は、
今回の投稿にとてもよく似ているように思う。

見事な投稿、どうもありがとうございました。
それでは、次回の更新で。

2014-12-10-WED

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