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 『贈る言葉』
 海援隊

 
1979年(昭和54年)

始まったばかりの
花火も見ずに、
泣きながら
その場を離れました。
(なないろ)

だけど私ほど あなたのことを
深く愛した ヤツはいない


中学校に上がってすぐ、
校庭で見かけた二学年上の先輩に
一目惚れしました。初恋でした。
Y先輩という名前とクラスを調べ上げ、
Y先輩と同じクラスの、
私と同じ部活にいた
C先輩(女性)に想いを打ち明けました。
C先輩は「あんなやつのどこがいいの?!」
と驚きつつも、
何かあれば協力すると言ってくれました。

でも、何しろ初恋。何しろ中学生。
「好き」と言う気持ち以外に、
何をどうしたらいいのかわからなかったんです。
「付き合う」なんてまだまだ縁遠い言葉。
校庭で体育の授業中のY先輩を見るだけ、
廊下ですれ違うだけ。
それだけで十分幸せで、ときめいていました。

C先輩が修学旅行での写真をくれたり、
手紙やチョコを渡すための
橋渡しを何度もしてくれました。
「卒業生を送る会」で歌ったのが
『贈る言葉』でした。
遠くからなのをいいことに、
まっすぐ先輩のほうを見て歌いました。
心を込めて歌いました。

先輩の卒業から5ヶ月ほど過ぎ、
地元の夏祭りがありました。
友達と夏祭りに出掛けました。
もちろん、もしかしたら
先輩に会えるかもと期待しながら。
お祭りの後半、花火が上がり始め、
流れていた人達が足を止め
空を見上げ始めたその時、
すぐ目の前にY先輩の姿を見つけました。
「あっ‥‥」と小さな声を上げた
私に気付いたY先輩の横には、
髪の長い女の人が寄り添っていました。
C先輩でした。

気まずそうな顔をして、
慌てて少し離れたC先輩と、
私の方を見ないようにしていたY先輩を見て、
心の中にあった熱い塊が、
急にスッと冷たくなりました。
後になれば、「ありがちなこと」と思うのですが、
その時はものすごく
「裏切られた」と言う気持ちが強くて‥‥。
始まったばかりの花火も見ずに、
友人に支えられて
泣きながらその場を離れました。

全てを知っている友人は、
家の近くの公園でブランコに乗りながら、
泣きじゃくる私の横で、
『贈る言葉』を小さな声で歌っていました。
「涙枯れるまで泣くほうがいい」と歌いながら、
私の背中をなでてくれました。
26年前の話です。

(なないろ)

きっと、この思い出は、
C先輩の側からも違った物語として
書けるのだろうなぁ、と思いました。
ひょっとしたら、
Y先輩の側からも書けるかもしれない。

そして、書き手側にはならないけれど、
公園のブランコで背中をなでてくれた
「友人」がとってもいいなぁと思いました。

友だちをなぐさめるために、歌をうたう。
いまの時代には、そういうことはあるのかな。

それこそ『贈る言葉』の時代には、
なんか、感情を解決するための、
わりとふつうの方法のひとつとして、
「歌をうたう」ってことが
あったように思うんですよね。
いまは、聴く手段がすごく発達しているから
(それはそれで超うらやましい)、
傍らでうたったりしなくてもいいのかもしれない。

夜の公園のブランコが目に浮かぶような
すばらしい思い出を、
どうもありがとうございました。

ぼくの通っていた中学
(静岡市立城内中学校)には
生徒会のときにかならず歌う
生徒会ソングっていうのがありました。
毎年生徒からの投票で決まるんですが、
2年のときが『贈る言葉』、
3年のときが『人として』でした。
○○世代というのは言い方も考え方も
なんだか好きになれないぼくですが、
あえて自分の年代をいうならば、
「金八世代」です。なんですかこらー。
だからいまでももちろん歌えます。
武田鉄矢ファンでもないのに
曲がつい口をついて出てしまう‥‥。

金八先生の主題歌だったので
「卒業」をテーマにした歌だと
ずっと思っていたんですが、
最近知ったのは、もともとはこの曲、
恋愛(失恋)の歌なんだそうですね。
でも、曲は独り歩きをして、
卒業のスタンダード・ソングみたいに
なっていった。
いい曲なんだろうな、やっぱり。

(なないろ)さんもだけど、
この曲を思いだしたことで
「全てを知っている友人」も、
ほっとしたんじゃないかな。
曲に出てくる、ちょっと大人びた風景が
急にじぶんたちの眼の前にひろがる。
それが大人になっていくっていう
ことだったのかもしれません。

いやぁ、先輩Cさん。
登場されたときから「やややゃゃゃ」と
わたくし、思っておりました。
あります、そういうことは、ある。
でも初恋当時は、なにせ中学生、
二重に悲しかったですよね。
恋愛は、人に相談したり
橋渡ししてもらっちゃあいけないし、
そもそも、先やら後やらは、ないんですよね‥‥
わかっちゃあいるけども‥‥おお、わたしも
ブランコの友達の気分になってしまいました。

でも、海援隊も歌います。

人は悲しみが多いほど
人には優しくできるのだから

これほんと!!

うわぁ、先輩Cさん!
ぼくはまったく信じきっていたので、
ほんとにびっくりしましたよ。
うーーん‥‥
でも、ありますね。
そういうことは、ある。
先輩Cさんが「慌てて少し離れた」というのが
たいへんリアルでした。
ドラマチックと言うと申し訳ないですが、
花火の光に浮かび上がる、その緊張感‥‥。
夏のせつない思い出として、
いまもずっと残っているのですね。
痛さはもう、癒えたのでしょうかどうでしょうか。

そして、ブランコの友人。
すばらしい存在です。
助演女優賞を、彼女に!
「恋愛」と「友情」って、ときに交差しながら、
一緒に自分の時代を走っていますよね。

花火の季節もぼちぼち終わり、でしょうか。
夏は短いです。
次の更新では、ちょっとひとつ、
夏の終わりにふさわしいのをお届けしようかな。
どうぞ、おたのしみに。

2014-08-27-WED

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