『LOVE LETTER』
 槇原敬之

 
1996年(平成8年)
 アルバム「UNDERWEAR」収録

今日くらいは恋と呼ぶことを
自分に許そうと思えました。
(まだまだ雪深いよ)

何回も何回も
書き直した手紙は
ずっと僕のポケットの中


今朝、新しい赴任先へ旅立って行かれました。
もう二度と会うことの無いお別れです。

私の住む雪深い山あいのちいさな集落では、
学校の職員さんたちの引っ越しをみんなが手伝います。

一列にならんでリレーしている荷物に、
性格の輪郭が伺えるような気がしました。

意外にも饒舌なところがあるのだと知ったのは
数日前の地域のお別れ会での事でした。

地域の行事に職員さんたちはよく参加してくれるので
姿はよく見かけましたが
話をしたことは本当にありませんでした。

洋服の選び方がいい人だな、と思ってました。

恋ともいえない、ささやかな思いに気づいたのは
転勤されるらしい、と聞いてから。

トラックに続いて走り出す車に
みんなと手を振ってお別れしました。

空いたその部屋には新しい職員さんが
今日のうちに到着され、
また一列になって荷物を運び入れました。

新しい日常の始まり。

手紙をこの歌のように認めるようなことはしませんが、
さっき用事からの帰り道、月を見て、
遠い町にもこの月が浮かんでいるのだと思った気持ちを
今日くらいは恋と呼ぶことを自分に許そうと思えました。

(まだまだ雪深いよ)

「LOVE LETTER」の主人公は男の子で
好きになった同級生(だと思う)が
就職で遠くの町に行ってしまう、
せめてもの思いを伝えたくて
何度も書き直した手紙だけど、
まだ、渡せずにいる。
そんな歌です。

槙原さんの歌にも「見ている」シーンを
紡いでいく歌詞がいくつかあるように、
そしてそういうシーンを重ねていくことで
恋の重さを表現していくように、
(まだまだ雪深いよ)さんも、
そのひとのことを、ずっと見ています。
けれどもじぶんの気持ちに気付いたのは
皮肉にも、その人の転勤が決まってから。
そのみじかい時間に積み重ねた思いや
見つめたその人のすがたを考えると、
ほんとうにせつなくなっちゃった。

いまこのコメントを書きながら
「LOVE LETTER」を聴き直しています。
このアルバムいいなあ。
ちょっとすごいジャケットだけど。

「荷物に性格の輪郭が伺えるような気がしました」
とか
「洋服の選び方がいい人だな、と思ってました」
とか
「遠い町にもこの月が浮かんでいるのだ」
とか
「今日くらいは恋と呼ぶ」
とか。

くらくらします。
すばらしい、恋の名文。
切実な投稿を鑑賞するようなことを言って
すみません。
でも、心をつかまれました。

読み終えた私のまぶたにも雪と月が見えます。
そうやって、すこしでもふれあった人、
もう会うこともない人を
「友達」って呼べたらいいのになぁ。

いやいや。
「今日くらいは恋と呼ぶ」のが
やっぱりいいのですね。

雪の中、集落を出て行く人の引っ越しを
みんなで手伝う。
荷物をつぎつぎに手渡しながら。

そんな風景は見たことがないと
はっきり断言できるのに、
雪のなかの引っ越しの場面が
ありありと目に浮かびます。

そして、荷物を運ぶひとりの人が、
引っ越していく人を
控えめに見つめているのさえ、
思い浮かんでしまう。

ことばだけで、そういった
「恋の物語と風景」が浮かび上がり、
切ない気持ちさえ、
共有できるような気がするんですが、
それって、いい恋歌を聴いたときと
すごく似てますね。

月の下に続いていく日常、という、
ラストシーンもとても素敵です。

ほんとうに。
映画の冒頭のシーンのような、
荷物が運び出される映像が頭に浮かびます。

(まだまだ雪深いよ)さんは、
自分のなかで増幅していく想いを
静かに抑えながら
この投稿を書いているように思えました。
冷静に、落ち着いて、クッとこらえて。
抑えているからこそ、
ときおりかいまみえる「恋心」が
よりきれいな輪郭でこちらに届いてきます。
居住まいよく、切ない。
「雪深い山あいのちいさな集落」という場所も
その印象を強くしている気がしました。

すてきな文章。
瑞々しい描写。
こんなふうに書けたらなぁと、
ちょっとあこがれてしまいます。
ありがとうございました。

さあ、すこしずつ年末の気配がしてきましたね。
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それではまた。
水曜日にお会いしましょう。

2013-12-07-SAT

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