『ずっと好きだった』
 斉藤和義

 
2010年(平成22年)

お互いに
憎からず思う関係は、
きっと、最後まで
変わらない。
 (はな)

ずっと好きだったんだぜ
相変わらずきれいだな
ホント好きだったんだぜ

転勤してきた彼は私の上司です。
ハンサムで、単に社交的、というよりも
とにかく周りを楽しく、周りに愛される彼と、
とても心地よい関係のピースがぴたりとはまりました。
なかよくなりすぎたなー、
もしかしたらこのままでいくと・・・と
不安のような期待なような気持ちを
なんとなく互いに意識しています。

うちの社は一つのポストに従事する期間というのが
社内ルールで規定されており、
任期が終われば転勤していきます。
そしてお互いパートナーのいる私たちにとって
それが事実上関係の終わりです。
同じ社内といえども本社なのか海外なのか
他支社なのかわかりませんが
物理的に離れてしまえば、緊密ではいられませんから。

数年先の人事より先に、
今のような浮ついた関係はなくなっているかもなと
想像することもあるのですが、
逆に先の領域に踏み込んでしまうことはあっても、
お互いに憎からず思う今の気持ちと関係は、
きっと、最後まで変わらないと思えるのです。

仕事もぎゅうぎゅうに充実しており、
彼がいる間に一つのプロジェクトを
まとめ上げたいという野望を抱いています。
男女としての思い出だけでなく
頭が良くて、最高に仕事ができる彼に
充実した仕事の思い出と一緒に
私の存在を思い出してほしいから。

二人でカラオケに行くと何曲目かに彼が歌うこの歌。
やたら歌がうまい彼のこの歌を聴きながら、
何年か先この歌を聴くたび
いや、私自身が口ずさんで
この人を思い出すのだろうなと、
恋歌予感を感じています。
「おまえ、美人だよなー」
普段は私をけちょんけちょんに言う彼が
何かの拍子に言ってくれた言葉とともに。

(はな)

想像ですが、おふたりが働いている場所は、
きっと、とてもきびしい世界なんでしょうね。
そんななかで生まれた、大人の恋。
一歩踏み出してしまったら、
どこにゆくのかわからない恋。
「そこから向こう」には行かないように、
その手前で、ぐっと足をとめて、
けれど、思いは強く、
その思いがずっつ続きますようにと願う恋。
向田邦子さんのドラマに出てきそうな、
目配せひとつ、ため息ひとつが
すべてをあらわすような関係、
ぼくは素敵だと思います。
応援‥‥とはちがうけれど
(行っちゃえ! の意味じゃないです)
やっぱり素敵だと思うのです。
きっとあとから、ずっとあとから、
たからもののように思える時間、関係に
なっていくんじゃないかなあと思って。
プロジェクトの成功をいのってます!

読んでいて、なにか、
いつも読む恋の思い出とは
違うなと感じたのですが、
この投稿、視点が未来にあるのですね。

過去の恋の思い出をいま思い返すのではなく、
いまの(そうなりつつある)恋の思い出を
未来の自分の視点から振り返っている。
それは、いずれいまの関係が終わってしまうことが
どうしても避けられないことだから。

「それでも私たちの恋は!」と
盲目的に信じられる年齢を過ぎた大人だからこそ、
不可避な未来にあらかじめ身構えてしまう。
それが、なんとも
「大人っぽい切なさ」を感じさせる一方で、
その「終わることが前提の関係」を、
すっぱりあきらめるどころか
それこそ若い頃の恋と同じように
「ままならぬと知りつつ進めざるを得ない」
というあたりが、生々しく、
より本質的な恋を感じさせました。

理屈で避けられる関係なら
恋とは呼べないのかもね。

あああ、わかる、わかりますよ、恋歌予感。
私は、ちょっぴり好きな人が
CDを貸してくれたときに
よくそれを思っていました。
「これからこの歌を聞くたびに
 思い出してしまうかもしれない‥‥」と。
恋歌予感って、いい言葉だなぁ。

離れてしまうことがお互いにわかっていて、
最後はとってもつらいかもしれない。
わー、どうしよう、気が遠くなります。
でも、一線を越えることだけが
人間の関係ではないということは
大人にはわかっています。

もうそれは、「ずっと好きだった」を
恋歌にするしかないでしょう。
ずっとずっと歌い続けていきましょう。
レッツゴー、カラオケ。カンパーイ。

ほんと。
「恋歌予感」。
いい言葉ですねー。
なんだろう、この言葉の感覚。
あれかも‥‥
夢の中で「これは夢?」と気づく感じに
すこし似ているのかも。

恋歌予感は、ぼくも経験があります。
「この曲は、この先ずっと、
 聴くたんびに切なくなるんだろうなぁ」
そう思ったことをはっきりと覚えています。
で、そうだ、
それはやっぱり夢から覚めかけているような段階で
気づいたことでした。

(はな)さんは、どうなんだろう。
覚めかけているのでしょうか、それともまだ‥‥?

どうぞこのまま、淡い夢のようにフェードアウトで
「よい想い出」に変わっていきますように‥‥。
そんなことを個人的には勝手に願いつつ、
今回はこんなところで。

金曜日に、お会いしましょう。

2013-01-09-WED

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