カワイイもの好きな人々。
(ただし、おじさんの部)

ここは横須賀、ドブ板通り。
午後2時半の、モダンなカフェレストラン。

中野シロウさん(37)は
はにかんだ笑顔でバッグの中から
木製の小さな物体を取りだすと、
僕の手の上に
ちょこんと乗せてくれるのでありました。

第14回
こけしはカワイイ。

山下 え? ‥‥ああ、なるほど、
こういう、ちっちゃいやつなんですね。
中野 はい、小さいこけしです。
あ、それ頭に穴があいてますでしょ。
山下 はい、あいてますね。
中野 そこにこういう、楊枝が入るんです。
山下 わ、楊枝にもこけしの顔が‥‥細かいなあ。
ええと‥‥、ほかにもたくさん
持ってきていただいたんですよね?
中野 はい。ぜんぶ出しましょうか。
山下 ぜ、ぜひ、見せてください。
このコーナーの第5回をまとめていたころ、
僕は中野シロウさんの存在を知りました。
横須賀にお住まいの中野さん(既婚)は、
モダンペットという
ぬいぐるみを生み出したデザイナーさん。
「このかわいいものをつくった人に会いたい!」
僕は、願い続けていたのです。

さて中野さん、
テーブルの上に次々と、並べていきます。
たまたま、お店にほかのお客さんはいません。
しかもこのカフェは中野さんの行きつけ。
誰の目も、はばかることはないのです。
男ふたり、こけし話に花を咲かせましょう。

山下 うわあ、いい! これはいいですねえ。
中野 ほとんどが小田原の民芸品、
メイド・イン・ジャパンです。
かわいいでしょ。
山下 はい、どれもちっちゃくて‥‥。
こけしと聞いていたものですから、
てっきり、あの高さ30センチくらいの
大きなものかと。
中野 あ、そう思ってましたか。
山下 しかも15体ほど持ってきてくださると‥‥。
それを、お店のテーブルに並べたりしたら
これ、えらいことになるぞと。
中野 ははは。
山下 普通の大きいこけしは持ってないのですか?
中野 あれは怖いから。
山下 怖い(笑)。
中野 いや、大きいスタンダードなのも
素晴しいと思いますよ。
でも自分の家に合うやつを選ぶと、
こういう遊びのあるものになるんですね。
山下 なるほど‥‥。
ああ、これなんか、ほのぼのとしてて
ほんっとにかわいいですよねえ。
まったく怖くない。
中野 モダンでしょ。きれいなんですよ。
山下 こっちのも、しみじみかわいいです。
3つ並べて‥‥ああ、いいなあ。
中野 アイデアにあふれてますよね。
デザインの勉強にもなるんです。
山下 でも、あれですね、あふれるアイデアが
すごいとこまでいっちゃって、
これ、こけし? っていうのもありますね。
中野 はい、そこがまたおもしろい。
山下 これとか‥‥なんでしょう、
からだが植物のようですが‥‥。
中野 カツオ。
山下 え? ‥‥あ、はいはい、カツオ(笑)。
で、ええと、これもこけしですよね。
中野 こけしなのだから
子どもの人形のはずなのに
なぜか母も一緒なんです。
山下 母子こけし(笑)。
‥‥こっちのこれは、ピエロ?
中野 そのふくみ笑いはなんなんだ、と。
山下 はははは‥‥。
そ、そして、これ!
中野 (笑)これはもう、
こけしだって言われないとわかんない。
山下 なんでしょう(笑)‥‥宇宙の子?
職人さんの調子に乗りっぷりが
伝わってきます。
中野 それとほら、これちょっとすごいんですよ。
山下 なんか上むいて口あけてますが‥‥。
中野 通産大臣賞をとったらしいんです。
山下 ほんとだ、書いてますね。
中野 「山びこ」って作品らしくて、
こんな紙が一緒についてました。
山下 ん? なにやら詩が‥‥。
中野 (朗々と読む)
青麻嶺(あおそね)に
乳房を恋ひて
夢を呼ぶ
山びこ童児
四人並んで
‥‥‥‥‥‥なんなんだこれは、と。
山下 はははははははは、
口をあけてるのは、乳房を恋ひて、ですか!
中野 ね、(笑)おもしろいでしょ?
最初は、おもしろくて買うんですよ。
山下 ‥‥ああ。はい、笑いました。
中野 でもそういうウケが終わってからも、
飽きることはないし、手放さない。
山下 それはやっぱり、
ていねいにつくってあるから。
中野 そうです。ちゃんと、かわいいんですよ。
山下 どういう場所で見つけるんです?
中野 骨董市とかフリーマーケットですね。
1個100円とか、高くても500円くらいで。
山下 今はもうつくってないものなんですか?
中野 つくってないでしょう、同じものは。
ここにあるので、
30年から50年前のものですからね。
山下 ああ、その時代のものなんですか。
中野 そうなんです、だからほら、
このお店にあっても違和感ないですよね。
山下 はい、それは僕も思ってました。
例えば、そこの棚に飾ってもおかしくない。
中野 ‥‥よし。じゃあちょっと頼んでみますね。
中野さん、お店の方に頼んで
撮影用にと棚を借りてくださいました。
ミッドセンチュリーアメリカなお店の棚に
同じ時代の日本のこけしを並べていきます。

中野 ‥‥‥‥こんなかんじでしょうか。
山下 あ、やはり合いますねえ。
中野 こうやって、1個だけ置いたりもして。
山下 さすがですねえ‥‥。
あの、じゃあ僕も、ちょっといいですか?
中野 あ、山下さんもやりますか。
山下 中野さんのぬいぐるみとですね、
こけしをぜひ一緒に並べてみたく思います。
中野 ああ、ははは。
山下 ではまず、カツオから‥‥。
カツオ「す、素敵な、ぼ、帽子ですね‥‥」
カツオ「わ、わーい」

中野 ははは。カツオ、カメラ目線ですね。
山下 続きまして、母子こけしの場合‥‥。
母「この子にも、お帽子を‥‥」
母「いえ、わたくしにではなく」

中野 はははは、くだらないなあ。
山下 本日は、どうもありがとうございました。


ほのぼのと、かわいかった。

そういえば昔、
どこの家にもありましたよね、こけし。
たくさん集めているおとなも、いましたっけ。
当時はまったく理解できなかったものですが、
今回、そうだったのかと納得。
「あれはカワイイから集めてたんだ」
そんなことがわかった山下哲(41)、
のどかな横須賀の午後でありました。


Special Thanks
RESTAURANT CAFE BAR サブロク
横須賀市本町3-14 TEL046-823-7378


この連載のきっかけにもなった僕の本
「ファイヤーキング マグ図鑑」
 河出書房新社1800円


コツコツと部数をのばし、
第3刷となりました。
詳しくはコチラで。
(ほぼ日内ではコチラでも)

2004-03-31-WED

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