カワイイもの好きな人々。
(ただし、おじさんの部)

たそがれ時の錦糸町。
駅から隅田川方面へ7分ほど歩いたところに
僕の好きなアメリカンアンティークのお店、
KEEP LEFTはあります。

いつもの穏やかな笑顔で出迎えてくださった
オーナーの羽部哲也さん(42)は、
かたわらの大きな紙袋から、意を決するように、
20センチ弱のヌイグルミを取りだすのでした。


第5回
ドリームペッツはカワイイ



山下 タコのヌイグルミって、
人生で初めて見たかもしれません。
羽部 珍しいですよね。
山下 あの、もしかしてこれ、
ドリームペッツっていうのじゃありません?
羽部 ああ、やっぱりご存知でしたか。
アメリカの古いマグカップだけを
ひたすら集めた本を出版するために
各地のショップを巡っていた僕は、
行く先々で、その古いヌイグルミを
目にしていたのでした。

さて羽部さん、
僕がドリームペッツを知っていたことで
少し安心なさったのか、
紙袋から次々とヌイグルミを出していきます。
羽部 こんなの、ご存知ですか。
山下 や、初めて見ます。カメですか。
あー、これはまた、いい表情ですねえ。
羽部 あとは、これとかね、こんなのとか‥‥。



山下 このくたびれ具合がいいですねえ。
ん? あれ? ドリームペッツって
ずいぶん固いんですね。
羽部 おがくずが詰まってるんです、ぎっしり。
カチカチだし、ズッシリしてるでしょ。
山下 UFOキャッチャーのとは違いますね。
羽部 そりゃそうです、一個ずつ手作りですよ。
山下 ああ、前から気にはなってたんですが、
これ‥‥いいです。
実際手に取ると、こう、グッときます。
羽部 そうですか、グッときますか。
山下 あ、ラベルがついたままのがありますね。
羽部 厳密にいうと、ドリームペッツっていうのは
このラベルの商品だけをさすんです。
山下 あ、そうなんですか。
羽部 こういう日本から輸出してたヌイグルミは
ほかにもいろいろあったんですよ、
ドリームペッツじゃないのも。
まあ、その手のヌイグルミをさすときに
わかりやすいので、ドリームペッツと
総称している感じですね、現状は。
山下 日本から輸出? これ、一度輸出されて
戻ってきたものなんですか。
羽部 そうです、タグに、ほら‥‥。
山下 ほんとだ、MADE IN JAPAN。
羽部 1950年頃から、たしか70年くらいまで、
アメリカの企業が日本の工場に
つくらせてたんですね。
山下 なるほどー、ちょうど今の日本の企業が
中国の工場に発注しているように‥‥
ここでしばらく
“経済”みたいな話題になるのですが、
これといってかわいい話ではないので、省略。

やがて、
羽部さんとドリームペッツの
出会いについてのお話になりました。
羽部 アメリカに買い付けに行ったとき、
このペアを見つけたのが最初でしてね。
山下 これ、ペアですか。
羽部 探偵と助手。
山下 え? ははは、
ちょ、ちょっと待ってください、
た、探偵と助手って、はははははは。
ええと、探偵は右?
羽部 正解。
山下 いっかにも、駄目コンビですねえ。
あ〜、いいなあ、このコンビ。
羽部 昔のアニメの地味なキャラクターなんですよ。
もともとこういうキャラクターものが
好きだったもんで、これがきっかけですね。
山下 なるほど〜、いやほんと、いいですわこれ。
ところで、あれ? ドリームペッツは
お店のどこに並べてるんでしたっけ。
羽部 あ、店には出してませんよ。
山下 え? そうでした?
羽部 はい。
山下 出さないんですか、これも全部?
羽部 出さないですねえ、これは。
山下 はあ、そうですか‥‥。
でもこれ、お店の雰囲気にピッタリですよね。
ほら、探偵と助手とKEEP LEFT。
羽部 ああ、いいですねえ。
山下 でしょ? いい感じですよね。
羽部 ええ、いいですね。
山下 そう‥‥並べればピッタリだ、ほんとに。
羽部 まあ、ディスプレイ用に
並べてもいいんですけどね。
山下 ディスプレイ‥‥。
でもきっと、そうするとお客さんに
値段を聞かれたりするんでしょうね。
羽部 ええ、そうでしょうね。
山下 例えばの話ですが、
この探偵と助手の値段を聞かれたら
ペアでおいくらって言います?
羽部 いやあ‥‥‥‥それは‥‥‥‥‥‥。
山下 ‥‥‥‥‥‥。
羽部 ‥‥値段つけられないです、やっぱり。
山下 売れない。
羽部 はい‥‥‥‥ごめんなさい。
山下 いや例えばの話ですから‥‥‥‥‥あ。
羽部 こら、チャコ、向こう行ってなさい。
山下 羽部さんには、ドリームだけじゃなくて
リアルなペットもいるんですね。
羽部 え?
山下 あ、すいません変なこといって。
きょうはありがとうございました。
じゃ最後に、
その売れないものたちの写真、
まとめて撮らせていただいていいですか。
羽部 はいはい、では、ここに並べますね。
山下 ほんと、申し訳ありません、
いろいろお願いばかりして‥‥‥‥‥‥‥‥
あ、あれ? あの、羽部さん。
羽部 はい?
山下 その、うしろのほうの
チワワとかウッドペッカーみたいなのは、
ドリームペッツではないですよね。
羽部 はい、かわいくて売れない物ってことで‥‥。
そういうの、まだ奥にけっこうありますけど、
どうしましょうか。
山下 あ、や、すみません、一応、
ドリームペッツ特集ってことにしたいので。
羽部 あー、じゃあ関係ないのはどけないと。
でも、これをどけると前のやつが
ひっくり返りますね、ええと‥‥。
山下 いや、それは、もう、そのままで。
それ以上足さなければ。
では、撮りまーす。
帰りの総武線、僕の頭の中では
探偵と助手がグルグル飛び回っていました。
「売ってください!」と羽部さんにはっきり
お願いすればよかったのでしょうか。
いいや、気持ちはすっかりバレてたはず。
それでも駄目なのだからしょうがない‥‥。

時刻は、すでに6時を過ぎています。
あれこれ探している暇はありません。
売っているお店の目星はついています。
探偵と助手は見つからないでしょうが、
それでもどうしても、
きょうのこの気持ちのうちに、
一匹手に入れたい!
西荻窪で電車を飛び降りると、
僕は、とある雑貨店へと走りました。
よかった、お店はまだ開いています。
そして‥‥‥‥‥‥いました。
探偵と助手に負けないくらい、
マヌケでカワイイのが。
スカンク ¥3,500


あー、衝動的に、かわいかった!

調べてみるとこのドリームペッツ、
ほんとにいろんな種類があるようで。
静かなブームでもあるようで。
モダンペッツという新品もあるようで。
このまま僕は、
沼にはまってしまうのでしょうか‥‥。

KEEP LEFTさんについての詳しくはコチラ。
http://www.keep-left.net/
羽部さんのドリームペッツは売ってくれませんが、
「仕入れようかな」とはおっしゃってました。
カッコイイ家具や食器も
これでもかというほど並んでますよ。

さて、
最後になりましたが、
皆さま、明けましておめでとうございました。
ことしも、カワイイ採集の旅は続きます。
どうぞよろしく。

 


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2004-01-07-WED

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