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糸井 |
「就職して、カツカレーが
迷わず頼めるようになった」
というのと同じような話を、
うちのスタッフのひとりがしてたんです。
そいつが大学生のころに、
同じサークルの先輩が就職をしたと。
で、6月くらいに、その先輩が
サークルの飲み会かなんかに
ふらっと現れたそうなんです。
こう、まだ着慣れないスーツかなんか着て。 |
しりあがり |
はい(笑)。 |
糸井 |
で、その先輩が酔っぱらって、
ポロッと言ったひと言に、
後輩たちがものすごい衝撃を受けたというんです。
どういうことを言ったかというと、
「ボーナスって、なんでも買えちゃうからな」
って言ったそうなんです。 |
しりあがり |
あはははははは。
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糸井 |
もう、後輩たちは、それを聞いて、
「なんでも買えるらしいぞ!」って。 |
しりあがり |
なんでも買えるって、すごいな(笑)。 |
糸井 |
その、カツカレーがうれしい若者からすると、
ボーナスって、なんでも買えちゃうんですよ。
時給とか、労働時間とかと関係なく、
「余計に何十万かもらえちゃう」みたいなものだから。 |
しりあがり |
ああ、なんでも買えますね、それは。
海外旅行とか車とか、思いもしないですからね。 |
糸井 |
知識として、ボーナスという制度や、
平均的な額面なんかを知っていても、
それが、身近な話として伝わると、
リアリティーが違うんですよね。 |
しりあがり |
うん。うれしいし、うらやましいですよね。
ほんとに、素直な気持ちとして。 |
糸井 |
だと思うんですよね。
人がその喜びを失うのって、いつなんだろう。 |
しりあがり |
そこは興味深いところですね。 |
糸井 |
そういう「得る喜び」が、
就職とか、働くことを考えるときに
語られなさすぎるような気がするんです。
もちろん、金がすべてだというわけじゃないですけど、
少なくとも、「働く」とか
「就職」ということを考えるとき、
それはセットになっててふつうでしょう? |
しりあがり |
そう思いますけどねぇ。
それは、純粋にうれしいことですし。 |
糸井 |
ああ、そうか、わかってきた。
「うれしい」という話が欠けてるんですね。
そういう正直なことを言う人が
いまは、いないのかもしれない。 |
しりあがり |
そうですね。 |
糸井 |
本当に食えなくてひもじいっていう場合の
「お金があるありがたさ」っていうのは
語る人がいるんでしょうけど、
それともちょっと違う話じゃないですか。
少なくともカレーは食えているレベルでの
「カツカレーがうれしい」という話であって。 |
しりあがり |
ぎりぎりの話じゃないんですよね。
お金のことを気にするわずらわしさ、というか。
あの、5千円くらいの貸し借りで
友だちとすごく仲悪くなったりするじゃないですか。 |
糸井 |
うん(笑)。 |
しりあがり |
あと、友だちと京都に旅行行ったことがあって、
ほんとに仲のいい友だちだったんですけど、
ぼくがお寺が観たいって言ったら、そいつは
「こんなのに金使うのはいやだ」って言って、
しょうがなくお寺の看板だけ拝んで帰ったりとかね。 |
糸井 |
(笑) |
しりあがり |
そうするとやっぱね、仲悪くなるんですよ。
たかだか500円かそこらのお金で。
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糸井 |
ああ。その話は、あれとつながるな。
この「就職論」の最初の対談で、
人事の専門家の河野さんという人と話したんですけど、
けっきょく面接で訊きたいことは、
「あなたは何を大切にしてきましたか」
っていうことだけなんです、って言ってたんですよ。 |
しりあがり |
ああ。 |
糸井 |
その人が何を大切にしてきたかが、
面接を通してわかったりすると、
「この人とならやっていける」って
わかるんだそうです。
だから、いまの拝観料の話にしても、
500円というお金を媒介にして
「何を大切にしているか」が
ちょっとだけ、わかっちゃったんでしょうね。 |
しりあがり |
ああ、なるほどね。そうですね。 |
糸井 |
たぶん、そういうことの連続なんでしょうね。

(続きます) |