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| 高平 | 晶文社のアルバイトでさ、 『ジャズの前衛と黒人たち』っていう 植草さんの本のポスターを、貼ってまわったんだよ。 都内100軒くらいのジャズ喫茶に。 |
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| ── | 当時はジャズ喫茶のピークですよね? | ||
| 高平 | うん、全国でいうと、 300軒くらいはあったんじゃないかな。 |
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| ── | 岩手県の一関に「ベイシー」という 有名なジャズ喫茶があるじゃないですか。 伝説的な店のようにいわれていますけど、 なにが、すごいんですか? やっぱり「音」とか‥‥? |
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| 高平 | まあ、音はいいよね。 もともと「蔵」なんだよ、ベイシーって。 だから、壁が厚い。 ようするに、大きなスピーカーを置く壁としては すごくいい構造してるんだよ、「蔵」って。 |
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| ── | オーナーの菅原さんというかたも、 オーディオ評論をやっていたりして‥‥ 有名人というか、文化人なんですよね。 |
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| 高平 | ただね、他にそういう店が なくなっちゃったってこともある。 新宿にあった「木馬」とかさ、 音も最高で、オーナーも有名で‥‥なんて店は いっぱいあったんだよ、昔は。 |
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| ── | なるほど‥‥。 あと、よく語られる ジャズ喫茶の「マナー」って、あるじゃないですか。 あれって、どれくらい本当なんですか? |
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| 高平 | いや、どのくらいといわれると困るけど、 たとえば、 レコードの演奏中にしゃべってたら 怒られるような店は、たしかにあったよね。 |
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| ── | そういうマナーって どこかで、だれかが始めたわけですよね? |
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| 高平 | うーん‥‥。 「喫茶店で音楽を聴く」っていう最初の形態は 「名曲喫茶」だと思うんだよね。 コーヒーを飲みながら、クラシックの名曲を聴く、と。 「モーツアルト」なんて店もあったし、 「ベートーベン」「田園」なんて店もあった。 そこからの発想だと思うんだよ、ジャズ喫茶って。 |
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| ── | ジャズ喫茶を知らない世代からすると、 なんとも不思議というか‥‥。 「ともだちと行っても ひとことも喋らないで出てくる」とか 「メニューにはコーヒーしかなくて、 それがひたすらまずい」とか、 いろいろ、語られてることがあるじゃないですか。 |
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| 高平 | でも、俺からしてみるとさ、 名曲喫茶で 静かにクラシックを聴くっていうのはわかるんだけど、 なんでジャズ喫茶で 「シーッ!」なんていわれなきゃならないんだ? という気も、するんだよね。 だって、そもそもジャズってのは 奴隷として新大陸に連れてこられた黒人労働者の ワークソングだったわけだからさ。 「♪かあちゃんのためなら、えーんやこーらっ」 ‥‥じゃないけど、 線路をつくったりしてるときに 口ずさんでた歌が、ベースにあるわけだから。 |
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| ── | 日本独特の文化なんですね、ジャズ喫茶って。 | ||
| 高平 | アメリカ人が、ライブハウスなんかで 酒を飲みながら聴いてるのと あきらかに、態度としてちがうよね。 日本のジャズ喫茶の文化ってのは。 つまり、ジャズを聴くことが 「高尚なこと」とされちゃったというか、 ひとつの「スタイル」になっちゃったんだよ、日本では。 でも実際は、高尚でもなんでもないんだよ。 |
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| ── | なるほど‥‥。 | ||
| 高平 | 俺なんかが中学高校のときなんて、 「なんで威張って聴いてやがんだ」みたいな意識は まだ、あったからね。 |
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| ── | だんだん、様式化していってしまったわけですね。 | ||
| 高平 | うん、だから新宿の「DIG」って有名店が 「ジンライム」と「ジントニック」を置くようになったら、 他の店もマネしてメニューに載せたり、 「DIG」が店のなかに「古い時計」を飾ったら、 日本全国のジャズ喫茶に 「古時計」が置かれるようになったり‥‥さ。 そういう時代だったんだよ。 |
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| <続きます> | |||

