クロとブルータは、
アークさんのホームページを見て、
糸井が会いたいと思っていた2匹の犬です。
「犬がじぶんのことを話してるように書いてあって、
2匹いっしょじゃないと嫌だっていうんだよ。
その条件だけはどうしても譲れないんだって。
じぶんで言ってるもんだから、まいちゃうんだ」
お年寄りの飼い主に可愛がられて
ちいさいときからいっしょに育ってきた
クロとブルータ。
飼い主に先立たれて、6歳のときに
アークにやってきました。
2匹いっしょじゃないと嫌だと思っていたら、
里親が見つからないまま、いま14歳。
スポンサードッグとして
アークで暮らしています。
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「糸井さん、会いたかったんだって。うれしいねえ」
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「あー、ほんとにいっしょだねぇ。そうかそうかぁ」
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すっかりおじゃましてしまいましたが、
最後にひとつ、お尋ねします。
いま、アークさんが
いちばん必要としているものはなんですか?
オリバーさんと平田さんは、一瞬顔を見合わせて、
こう、言いました。
「サンクチュアリの費用と、そのPRですね」
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「サンクチュアリ」というのは、
アークさんが兵庫県の篠山(ささやま)に
建設を予定している新しいシェルター。
ジョージの勝地さんが、糸井との対談で、
力を込めて話してくださっていました。
「わたしたちは、これまで
草の根的に活動してきたので、
PR上手な人がいないんです。
ここ数年は、写真家の原田京子さんが、
手伝ってくださって、
アークの動物たちの写真を撮って、
本をつくったり、写真展を開いたり。
ようやく少しみなさんに知ってもらえる
機会が増えてきたんですけど、
そこからさらに踏み込むのには、
どうしていったらいいのか。
なかなか難しくて」
「サンクチュアリ」の建設は、
アークのこれまでの活動のなかでも、
もっともおおがかりなプロジェクトです。
2008年に土地を確保して、
今年、ようやく建設の許可がおりたところ。
施設や設備は、
イギリスのシェルターを参考にして、
具体的な建設プランを詰めています。
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▲「サンクチュアリ」の完成予想図
(クリックすると拡大します)
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▲イギリスのシェルター「Dog Trust」はこんなところ
「ここはだいたい1000坪なんですが、坂道が多いでしょ。
篠山は、平坦で、7000坪あります。
川があって、自然が多く残っている。きれいなところです。
里親を希望する人たちも訪ねやすい場所だし、
動物たちの環境も、いまよりずっとよくなると思います」
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偶然ですが、糸井は篠山に行ったことがありました。
「いい場所です。人もいいんです。
あずきとか、黒豆とかつくってるから、
”アークなんとか” とか、農作物をつくって
ここで売ったりしてもいいかもしれない」
アーク豆とか、いいですね。
「アークガーデン、ちいさいけれど、いまもやってます。
この季節は何もないけど、植物をつくっているんです。
篠山は土地が広いので、もっといろいろできそうですね」
篠山に動けるのは、いつ頃の予定ですか?
「資金の集まり具合でもあるんですが、
建築の許可が下りたので、
まずは、排水とか水道、基礎の部分とか、
見えないところの工事を始めます。
その工事にまもなく着工できる予定ですが、
篠山にみんなで移動するのは、まだ先になりますね」
そろそろ、日もおちてきました。
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「ありがとうございました。
ほんとに来てよかったです。
新しいシェルター、たのしみですね」
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「ありがとう。またいつでもいらしてください」
その夜、東京に戻った糸井は、
翌日の「今日のダーリン」にこの日のことを
こう記しました。
こういった施設のことを知ったときに、
思い浮かびやすい「かわいそうな」という印象とは、
たぶん、かなりちがいます。
どの動物たちも、明らかに、気にかけられて、
今日も明日も生きやすいように世話をされてます。
そのことは、犬や猫にもたぶんよく通じているようです。
でもね、みんな、「じぶんの家族」がほしいんですって。
だから、あたらしい家族のところに行くと、
もっとずっと幸せそうになるといいます。
もうちょっと切ないことに、
ここに保護される前に、
さんざん虐待をされてきた家族のところにも、
帰りたがったりもするんだそうです。
「じぶんの家族」かぁ。
犬や猫のことを考えていると、
どうしても人間のことも思い出してしまいます。
『ARK』さんで、ふと聞いた
「じぶんの家族」ということばが、
ずいぶん大きな意味を持つんだなぁ、と、
頭のなかに響きました。
できることを、する‥‥って、それしかないんだよなぁ。
2011年2月6日 今日のダーリンより |
(おわります。お読みくださってありがとうございました)
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