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── |
きょうはよろしくお願いします。 |
冨士 |
こちらこそ、よろしくお願いします。 |
── |
いやあ、すごいにぎわいですね。 |
冨士 |
このあたりは昔、奥山と呼ばれていまして。 |
── |
はい、見世物小屋などがたくさんあったという。 |
冨士 |
そう、それをここに再現しているわけです。 |
 |
── |
なんですかいろんな出店が‥‥。
冨士さんは、この奥山の催しの責任者だそうで。 |
冨士 |
ええ、役割分担で私はここを。
のちほど、さっとご案内しますね。 |
── |
ありがとうございます、たのしみです。
ええと‥‥それでは、すばらしい江戸風情の中で
まずおうかがいしたいのは
お仕事のお話なのですが‥‥お菓子屋さんで。 |
冨士 |
はい、「評判堂」という菓子屋を。 |
── |
ここに来る途中、仲見世にあった、あの、 |
冨士 |
はい、あそこでやらせていただいてます。 |
── |
いつごろからのお店なのですか? |
冨士 |
『あさくさ仲見世の史話』という本が
出てるんですけれども、それをみますと
明治18年に仲見世がいまの形に
なりましたということが書いてまして、 |
── |
はい、ええ。 |
冨士 |
そのときのイベントで
売り上げ競争というのをやったときの記録に
「売り上げ一番、評判堂」とあるんです。 |
── |
明治18年にはあった、と。 |
冨士 |
そうですね、正確なところは
戦争で記録が焼けちゃってわからなくて‥‥。
ちなみにこれは、私が生まれる前、
昭和初期の店の写真です。 |
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── |
ああ、わざわざお持ちいただいて。
ここで、ずっとお菓子屋さんを。 |
冨士 |
ええ、いまは雷おこしですとかお煎餅、
あられが中心で、飴もやったり、いろいろです。 |
── |
失礼ですが冨士さん、おいくつで? |
冨士 |
ことし、ちょうど60になりました。 |
── |
はー、そうですかぁ。
いや、冨士さんを紹介してくださったかたが
「男前が出てきますよお」
と言われてたんで、たのしみにしてたんです。 |
冨士 |
それは、どうでしょう(笑)。 |
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── |
あの、冨士さんにとって、
浅草のいちばん古い記憶というと? |
冨士 |
古い記憶、そうですね‥‥。
2つか3つくらいでしょうか、
まだこのあたりは戦後の爪痕がのこってまして。
仮の本堂がありましたけど、雷門はない、
宝蔵門はない、五重塔もありませんでした。 |
── |
いまここから見えるものがほとんど、ない。 |
冨士 |
ええ。それで、いま雷門がある場所にね、
池がふたつあったんですよ。 |
── |
へえ〜。 |
冨士 |
そこでよく遊んだのを覚えてます。
で、しばらくして雷門が復活して、
もうしわけ程度に仲見世のゲートができてね。
本堂でセレモニーがあったのも覚えてますよ。
鬼瓦が、こう、引っぱり上げられていって‥‥。 |
── |
そうですかあ。 |
冨士 |
それと、子どものころには、
「あそこには行っちゃいけない」って言われてた
なにか怪しげな路地みたいなものが
あっちこちにありましたね。 |
── |
子どもだから、行くことはできませんよね。 |
冨士 |
ええ、行けなかった。
垣間見ることはありましたけど。 |
── |
垣間見る(笑)。 |
冨士 |
あのね、怪しげな物売りがいましたよ。
なんかシクシクシクシク泣いてね、
前に万年筆を並べといて。 |
── |
はい(笑)。 |
冨士 |
すすけちゃってる万年筆をこう磨きながらね、
シクシクやってんですよ。
するとそこに男の人がきて、
「どうしたんだい?」 ってたずねると、
「文房具の会社が火事で倒産しちゃって、
給料のかわりに万年筆をもらいました。
これが売れないと、おくににも帰れない」 |
── |
‥‥それはもしかして。 |
冨士 |
次の日になると、おんなじ場所でね、
泣く人とお客の役が逆になってる。 |
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── |
ははははは。
偽客、さくらってやつですね。 |
冨士 |
あとは瓦をね、こう、素手でばっと割って、
「これをやりたかったらこの本買え」
みたいなのもありましたねえ。
小屋の裏に行くと、瓦を金づちで叩いて
ヒビ入れてるやつがいるんです(笑)。 |
── |
(笑) |
冨士 |
そういうのが、まだこのへんにいました。 |
── |
奥山と呼ばれていたあたりに。 |
冨士 |
ちょっと、歩いてみますか(立ち上がる)。 |
── |
はい、ぜひ(立ち上がる)。
ほんと、平日だというのに、にぎやかですねえ。 |
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冨士 |
あ、そういえば、そこで、
荒井さんが店を出してますよ。 |
── |
‥‥荒井さんといいますと、
たしか3人目にお会いする、扇子職人さんの? |
冨士 |
そうそう。 |
── |
そ、そうですか。じ、実はですね、
正直を言いますと、その荒井さんというかたは
ちょっとこわい男性なのかなあ、と‥‥。 |
冨士 |
(笑)ご紹介だけしときましょう。
左に座ってるのが荒井さんです。
荒井さーん! この人、糸井さんのところの。 |
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── |
は、はじめまして! |
荒井 |
はい、こんちは。 |
── |
のちほど、おてやわらかにお願いします! |
荒井 |
あのさ、この前もらったファックス。 |
── |
は、はい。
(※取材依頼のファックスを送ったのです) |
荒井 |
なに書いてるか、わっかりにくくてさぁ!
あれじゃ、こっちはなに話しゃいいんだか。 |
── |
そ、そうでしたか、申し訳ないです!
のちほど、のちほどまたうかがいますので! |
荒井 |
あいよ、がんばってね(笑)。 |
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── |
ひゃあ〜。 |
冨士 |
(笑)昔っから、あいつはあんな感じで、
私と同い年の同級生なんですよ。
さっき話した池でね、一緒に遊んだり、
自転車の乗り方を教わったりね‥‥。 |
それからしばらく、冨士さんに解説をしていただきながら
「浅草奥山風景」をぶらぶらと歩きました。
赤い緋毛氈(ひもうせん)が風情たっぷりの食べ物屋さん。
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デンキブランで有名な「神谷バー」の出店には
5代目の社長がいらっしゃいました。
お名前を訊ねたら、「神谷です」というお返事が。
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職人さんが実演されている出店もたくさん。
こちらは刃物の職人さんですね。
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ブラシをつくる職人さんや、
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江戸文字を書いてくれるお店も。
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敷地内の舞台では、はなやかな出し物が。
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陽気な唐辛子屋さん。
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骨董品の出店もあれば、
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弓矢で遊べるお店も。
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両替所で1枚300円の小判を買えば、
これを使って、この場所でお買い物ができるんですよ。
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などなどなど‥‥こんな具合でたのしいお店が、
敷地のなかに約60も並んでいるのです。
しかもその裏手には、なんと歌舞伎小屋が!
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2カ月間の特別興行が行われている「平成中村座」では
11月25日まで、こちらを上演しています。l
いやはや、冨士さんのご案内で、
すっかり浅草寺を満喫させていただきました。
冨士さん、ありがとうございます!
これにて、浅草の男性、ひとりめへの取材はぶじ終了。
引き続き、おふたりめへとまいりましょう!
(つづきます)
「評判堂」
東京都台東区浅草1ー18ー1
年中無休
お店のHPはこちらからどうぞ。
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