ラオスのルアンナムターは
クロタイ族の割合がいちばん多いところです。
ラオス全体から見ると少数民族なんですけど、
国の北のはしにあるルアンナムターは、
いわゆるラオスにいちばんたくさんいる
ラオ族っていわれている人たちは少ないんですよ。
クロタイ族の人たちは、もともと、蚕を育てて
絹の糸を作る伝統がありました。
いちばん最初に段ボールにいっぱい
布が送られてきたっていうのも、
このクロタイ族の人たちの布でした。
つまり、私がこの仕事をするとっかかりになったのは
クロタイ族の人たちなんです。
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クロタイ族の人たちってね、
ちょっと語弊があるのかもしれないけど、
ひじょうに沖縄の人に近いような‥‥。
研究してるわけじゃなくて、
ただ感じてるだけですけれども、
髪型も昔の琉球の方とそっくり。
性格もすっごく明るくって、
お酒飲むことが大好きで、大らか。
だから仕事のやり方はかなり、
レンテンの人たちと違っています。
レンテンの人たちはいまも
自分たちの着る衣装として布を作っている。
でもクロタイの人は、
布を作ることは好きでやっているけれど、
自分たちはほとんど民族衣装を着ることは、もう、ない。
誰か買ってくれる人がいたら買ってもらう、
みたいな状況でした。
たとえば、これは二重織りっていう
織り方なんですけれども。
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ちょっと専門的なことで言うと、
織物って筬(おさ)と綜絖(そうこう)が
必要なんですけど、その綜絖の枚数を変えたり、
足を踏みながら綜絖を動かして織物を織る踏み木、
それを今まで2本しかなかったのを
4本に変えたりすることで
こういう織物ができるんですね。
そういう、今までなかったことを
ちょっとやってみようっていうような感じのことが、
クロタイ族の人とは、やりやすいんですよ。
何て言うのかな、手織りなんだけど、
機屋さんみたいっていうか。
「ちょっとこういうことやってみようよ」とか、
「こういう糸交ぜてやってみようよ」とか。
で、そういうことをやってみるための道具も
自分たちで作るんですね。
そういうところを面白く乗ってくれる性格っていうかな、
民族性があって。
だからクロタイ族の人とは、
彼らの持っている素材とか地元にあるものを使って、
道具なんかも自分たちで工夫しながら、
今までやってみたことのないことを
やってみるっていうようなことを
いろいろやってます。
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たとえばこういうような、
ちりちりしている糸は、
彼らはやったことがなくって。
強く撚るために、水車を作ったりもしました。
参考にしたのは日本の江戸時代の道具で、
八丁撚糸機(はっちょうねんしき)っていう、
たくさん、糸の紡が並んで、
回すといっぺんに10本とか20本、ばーって撚糸できる、
別に電気とか使わなくてっても
できるような道具があるんですね。
そういうものを日本の博物館みたいなところで
見つけてきて、現物を譲って下さるところを探して、
それをラオスに送って、
村の人たちと、みんなでこういうものを作ろうよって言って、
村で撚糸機を作ったんですよね。
それがクロタイ族の人たちのとの仕事です。
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そして、こちらはね、
他のものと違うということは、
触っていただけばわかると思うんですけれども、
使い古しの生地なんです。
レンテン族のものです。
レンテン族は、24時間、民族衣装を着てるんですよね。
もちろん着替えるんだけど、
着替えても同じものを着てるんですよ。
寝るときも、いかなるときも
同じ服装してるんですよね。
同じものを着回してる。
それで、これは、畑で働いたり、毎日肉体労働をして、
着古した布を回収して、もう1度洗い直して、
もう1度手縫いで縫い直したものなんです。
どう言えばいいのかな、
糞掃衣(ふんぞうえ)ってご存知ですか。
昔々ってティッシュペーパーとか
トイレットペーパーとか、
そんなものが、なかったじゃないですか。
だから、布って、
使って、使い古して、ぼろぼろになったものっていうのは
いちばん最後に、おしめになる。
おしめにして、またその布はたぶんいちばん最後に
何か汚いものを拭き取って捨てられていくような、
最後の最後までそういうふうに使われて
一生を終わっていくものだったんだと思うんですよね。
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布って、大昔のものってなかなか残ってないんですよね。
そういうふうに最後まで使って、
捨てられて終わっていく。
いいものが捨てられるんじゃなくて、
溶けるようにぼろぼろになったものも、
最後、汚いものを拭き取って、
その一生を終わる、
そういうものだったんだと思うんです。
レンテンの人たちもティッシュペーパーとかないから、
自分たちが着て使い込んで柔らかくなった布は
赤ちゃんの服を作ったり、
縫い直していろんな用途に使っています。
お釈迦様の時代に、弟子が、修行をするときに
身に付けるものは何を身に付けたらいいんですかって
聞いたときに、お釈迦様は、
そういう布、最後、汚いものを拭き取るような布を
つなぎ合わせてまとえばいいじゃないかって
おっしゃったそうなんです。
それが袈裟の始まりだそうですが、
そういう布のことを糞掃衣っていうんですって。
聖徳太子もそういう糞掃衣を着て
修行をされたっていいますね。
わたしはその話がすごく好きで、
捨てられていくような布をもう一度つなぎ合わせて、
1枚の布にしていくっていうことに、
ひじょうに魅力のある美しさを感じるんですよ。
それを実際見たことあるわけじゃないんですけど。
そういうような想像で作ってみたんです。
今回の展示では、そういうものを、
初めてたくさん出しています。
すごい肌触りがよくて気持ちがいいでしょう?
ちょっとぼろぼろなんですけどね。
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使い込まれた、藍染めの藍の色は、
時間の経過を経たからこそ出てくる色だと思うので、
そういうところを今回、
見ていただけたらいいなと思ってます。 |