──ギー・ラリベルテ。
世界で1億人以上の観客を魅了する
エンターテインメント集団
シルク・ドゥ・ソレイユの総帥。
創設者であり、いまなお、
クリエイティブとビジネスの両面で
シルク・ドゥ・ソレイユの舵を切り続け、
4000人のスタッフを導く指導者。
毎日のように世界中を飛び回り、
先日、11日間におよぶ宇宙旅行を体験した彼の、
出身は、ストリートの火ふき男。
ギー・ラリベルテ。
約2年にわたって
シルク・ドゥ・ソレイユを取材するあいだ、
私たちは、その名前を何度も耳にしました。
この、不思議で魅力的な集団の、
いちばん根っこのところには、
どうやら、その人がいるらしい。
「ギーがいるから大丈夫なんです」
「それを決めるのがギーだ」
「最後はギーが判断する」
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そんなことばを、何度聞いたことでしょう。
もちろん、私たちは彼への取材を希望しましたが、
それは簡単に運ぶことではありませんでした。
なんというか、
部外者としての勝手な印象からいうと、
ギー・ラリベルテという人は、
シルク・ドゥ・ソレイユにおいて
あきらかに「別格」なのです。
象徴的なエピソードがあります。
カナダのモントリオールにある
シルク・ドゥ・ソレイユの本社を取材したとき、
窓口になって私たちを案内してくださった
若い女性社員がいました。
取材の合間の雑談のときに、
私たちはギーについて訊きました。
なんだかみんながギーについて話しているけど、
ギーってどんな人なの? と。
彼女は、
ギーがどれほどみんなに尊敬されているか、
どんなにすぐれたリーダーであるかを
熱心に説明してくれました。
そして、最後に、ちょっと照れたように、
こうつけ加えたのです。
「‥‥でも、じつは、私もまだ会ったことがないの」
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ええっ?
聞けば聞くほど、
ギー・ラリベルテというのは不思議な人でした。
「もともとは、ストリートの火ふき男」
「創設メンバーのジル・サンクロワよりも若いが、
全社員を導く立場にあり、
ジルはギーに全幅の信頼を置いている」
「世界中を飛び回っているから、
決まったオフィスはない。」
「ネクタイが嫌いで、
取材に来た記者のネクタイを
ちょんぎっちゃったことがある。
(そのエピソードを聞いて、
通訳の角田さんはすぐにネクタイを外しました)」
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ギーについてのさまざまな話を耳にするたび、
私たちのギーに対する興味は
どんどん大きくなっていきました。
けっきょく、モントリオールでの滞在期間中、
私たちはギーに取材することができませんでした。
「いま、ギーはカナダにいるの?」と訊いても、
広報の人さえ「さぁ?」と
首をかしげるような状態でした。
モントリオールでの取材は
たいへんに成果が多く、
私たちは大いに満足したのですが、
ただひとつ、心残りだったのは、
「ギー・ラリベルテ」に会えなかったことでした。
シルク・ドゥ・ソレイユという
世にも魅力的なイメージを完成させるために、
「ギー・ラリベルテ」というピースは
欠けてはならないような気がしたのです。
──そして、1年以上が過ぎた2009年。
私たちのもとに、
「ギー・ラリベルテに
取材できるかもしれないのですが、
お会いになりますか?」
という連絡がはいったのです。
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(つづく)
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