いよいよ、本の発売まであと2日。
本をつくってきた立場からすると、
やはりこの時期は、
「どのくらいの人が求めてくださるんだろう?」
という不安のようなものがあります。
著者の糸井重里も、
「本にするために書いたものじゃないからねぇ」と
去年と同じようなことを言いながら、
なんとなく本の行く末を気にしているようです。

『思い出したら、思い出になった。』は、
『小さいことばを歌う場所』と同じように
糸井重里がほぼ日刊イトイ新聞に書いた
1年分の原稿のなかから
心に残ることばを集めた本です。

壮大な物語はありませんし、
なにかの具体的なコツが
書かれているわけでもありません。
それでも、1冊目と同様に、
この本に詰められた「小さいことば」は、
読んでくださった方に
きっとうまく作用すると思っています。
ときに詩のように、ときに冗談のように、
ときに指針のように、ときに自分のメモのように。

みなさまから寄せられた
『小さいことばを歌う場所』についてのメールを読むと
その思いはいっそう強くなります。
今日も、いくつかのメールを紹介しますね。



「誰かがよろこんでくれる、ということがなかったら、
 ほんとうにうれしいことなど、なにもない。」
(208〜209ページより)

料理を作るのが好きで、美味しい物が食べたくて、
いつも色々考えて作ります。
でもほんとうのところは違うんだと思った。
だって家族がみんなご飯が要らない日は、
自分のためだけに作ろうなんて思わない。
残り物とかコンビニとか、
なんか適当でいいやと思っちゃう。
作るのが好きでおいしい物が食べたいよりも、
家族が喜ぶからまたいろんなの作ってびっくりさせよう、
またおいしいって喜ぶ顔が見たい、
結局そこなんだという一点にたどり着きました。
入ったお店が美味しくなくても、一緒にいる誰かと
「まずいねー。ハズレだねー!」なんて言ってると、
それも楽しい思い出になったりするんですよね。
誰かが喜んでくれる、ということがなかったら
嬉しいことも楽しいことも何もなくなる。
本当にそうだなァ。
(hanaママ)


僕の好きな小さなことばは

「『対立は美しい』というような幻想で、
 無責任に話をややこしくすることには、
 ほんと気をつけたほうがいい。」
(26ページより)です。

単純な話なのに複雑にしようとする人とかいますよね。
意見をぶつけ合えば必ず良い方向に行くという考え方で
とにかく反論しようとしたり、
相手の弱点を突こうとしたり、
無意味にぶつかろうとしたり。
だから、この言葉をよんで、
すごく冷静に話せるようになった気がします。
(はたらくくるま)


好きなことばがたくさんあるのですが、
年中励まされていることばはこれです。

「『おまえ、ガッツがあるな』というのは、
 『おまえ、内臓いいぞ!』というふうにも訳せるかな。」
(156ページより)

気持ちがめげそうなときも、
「私は内臓が強いから、
 いずれガッツを発揮できる時がくるに違いない!」
なんて、よく思っています。
『思い出したら、思い出になった。』
楽しみにしております。
(ピロミ菌)


私にとっての小さなことばは、

「『あいつ、大丈夫かなぁ』と、心配している人がいて、
 その人の心のなかにある
 『安心』という栄養を消費させているんです。」
(28ページより)です。

この本を購入したころ、
仕事にも人間関係にも行き詰っていて
それを振り払おうと無理をしていた時期でした。
周囲の人たちは
「そんなに無理したら、身体壊すよ?」と
心配してくれていましたが、
私はそれを無視して突っ走ったあげく、
身体を壊して2ヶ月仕事を休みました。
この言葉を読んだとき、
私の行為は感謝こそされ心配されるものではないと
思い上がっていたのですが、
違う角度からお説教されたみたいで
ちょっと冷静になったのを覚えています。
今でも無理をしてはいけない体なのですが、
たとえ身体が元に戻ったとしても、
たとえ色んなことに行き詰っても、
もう周囲の人たちを心配させるようなことはしまいと
この言葉を読むたびに思うのです。
(すみこ)


「見えないものとか、聞こえない声だとか、
 あえて言ってないこととか、
 うまく言えないままのこととか、
 そういうことのほうが、
 ずっと多いのだということを、
 ぼくたちは忘れそうになる。」
(10ページより)

この言葉が心に残ってる理由を書こうとして
書いては消し、書いては消し、
を何度も繰り返してしまいました。
どう書いても、本当の自分の思いとは
違う言葉になってしまうからです。
だから、この言葉が好きな理由は説明しません。
ただ、響くんです。
もっともっと、毎日をしっかりと生きて、
この本の存在を忘れかけた頃にもう一度、
この本を読み返したいです。
(36歳・男)


この本の中で一番好きな言葉は、最後の最後のページ。
もくじにも、タイトルが載っていない一文です。

「風が強かったんだよねぇ。川が流れていたんだよねぇ。
 いっぱい走ったんだよねぇ。たのしかったよねー。」
(248〜249ページより)

なにかを考えさせられるとか教えられるというのではなく、
ただただこの言葉と写真が気持ちよくて、
せつなくて泣けてきました。
私にとっては、
とてもリアルな感覚を呼び起こす言葉でした。
また、今、認知症で頭の中が消しゴムだらけの母を思うと、
人生の最後の場面で、
こんなふうな気分になれたら幸せだろうなぁと。
(mariko)


去年1年の糸井重里のことばを集めた本、
『思い出したら、思い出になった。』は、
2月22日午前11時から発売開始となります。
お届けは3月下旬ごろになる予定。
どうぞ、よろしくお願いいたします。

2008-02-20-WED





(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN