

- 海の宿にいて、15人くらいのおとなが
みんなダラッとしてる。
なのに糸井さんが入ってきて
ちょっと声を発すると、
みんながちょっとピシッとなるんです。
それは、緊張するとかじゃなくて、
その人たちのいいところが出てくるという感じ。
とても印象に残っています。

- それは、まほちゃんが
子どもとして、そう思ったの?

- うん。
「あ、すごい。おとなが変わった」と思いました。
糸井さんが有名だから気を引きたいとか、
そういうんじゃなくて、
つられて、ちょっとシャッとなる感じ。

- ということは、俺がシャッとしてたってこと?

- うん、そうだと思います。

- 可笑しいなぁ(笑)。


- でも、そうだったんですよ。

- うん‥‥じつは、それと似たことを
お父さんに言われたことがあります。
それは、「そらさない」という言い方だった。
糸井さんは「そらさない人」ですね、と言われました。
「そらす」ってのにはいろんな意味がある。
「はぐらかす」という意味もあるし、
「人の気をそらす」という意味もある。
それを両方兼ねた意味で、
「糸井さんはそらさないんですね」と
吉本(隆明)さんがおっしゃったんです。

- はぁあ、なるほど。

- そのときもよくわかんなかったんだけど‥‥
つまり俺は人のいる場所に
「社会」を持ってきちゃう、ということなんだろうか。

- いや、そういう意味じゃなく、あくまで、
みんなの中の「ちょっといいところ」が
「ちょっと」出てくる、という感じなんです。
いっぱいじゃなくて、
「ちょっと」なんですよね(笑)。


- それは、すっごくうれしいですね。

- うん。それが活気を生んでいくんだと思う。
糸井さんの会社って、前はもう少し
クローズドだったでしょう?
べつに前が悪かったんじゃなくて、
そういう時代だったから、
内向的な人が多かったと思う。

- そうですね。

- それが「ほぼ日」をはじめて
会社がオープンになりはじめたとき、
「あ、きっとそういうふうになるんだ」
と思いました。

- あぁ‥‥人って、
意外と遠くから見てるんだね(笑)。

- はい、遠くから見てます(笑)。
みんながちょっとずつ
いいところを出し合ってる感じが、
「あ、あのときの、
海の宿で起きてたことと同じだ」
と、「ほぼ日」について、いつも思う。

- うれしいなぁ。
大プレゼントをもらったような気がします。

- 糸井さんのもってる宝物みたいなものは、
そこだと思ってます。
ちいさいときからずっと、そう思ってました。


- ちいさいときからそんなふうに(笑)。
でもそれ、いったい何なんだろうなぁ。
ぼく自身が日曜日の午後にゴロゴロしてるときには、
その気配はきっとないと思うんですよ。

- うーん、いや、あると思います。

- そのときもあるんですか(笑)。

- あると思います。
だって、海でも、糸井さんはべつに
ゴロゴロしてたし。

- あ、そうだね(笑)。

- 娘さんが
「お父さんが寝てるから退屈」とか言って、
私たちのとこにやってきたりして。

- そうだね(笑)。
そういえばぼくには、「海」で
娘に関する想い出がひとつあってね。
宿に泊まって、朝方、寝てるでしょ?
娘は部屋で自分だけが目を覚ましてるんだけど、
ひとりで海に行くこともできないし、
ぼくを起こしても悪いと思って、
ひとりで天井を見ながらちいさな声で
歌をうたってたんです。


- キューン(笑)。

- ぼくは悪いなと思ってたんだけど、
まだうとうとしたりしててね(笑)。
でも、起きなきゃな、と思って起きる。
「行こうよ行こうよ」と言われても、
きっとぼくは動かないんです。
さっき話に出た
まほちゃんが吉本さんから受けついだという
「好み」で言うと、
ぼくは要求されるものに弱いんです。
我慢してる人がいて、こっちが気づいて、
「それはこうしなきゃ」って思うほうが、できる。
そういうのが、好みといえば好みです。
「要求すればもらえると思ってるのが甘い」
って、思っちゃうのかなぁ。

- うーん‥‥いまは、要求する人が
多いんじゃないでしょうか。

- うん、多いね。世の中全体に多い。

- だからじゃないでしょうか、
糸井さん、うんざりしてるんですよ。

- でも、それはみんながあらゆる場面で
「要求したほうがいいですよ」
という教育を受けてきたことが影響してるでしょう。

- うん。
「ダメもとで言ってみたらどうですか?」
っていつも言われる。

- 「お互いにはっきり言い合いましょう」
とも言われるね。
でもそうやってほんとうに言い合ってたら、
家なんか一軒も建たないですよ。
日あたりひとつとっても
「こっちはこのくらい我慢するよ」という話をしないで
「お互いに思い切って、言わなきゃだめだよ」
という教育を受けているから、
思い切って言った結果、そのままになってる。
まほちゃんは、要求云々はしないね。

- あんまりしないかも。

- 叩かれたら「痛い」って言う、
という感じはするけど。

- 昔はあったけど、それも
おばさんになったらなくなりました。
デリケートな面がなくなったので。

- あぁ、いいね。

- すばらしい。年をとるってすばらしいです。


- デリケートでいることって
ある時期には自慢だったりするから。

- うん。まわりもそれを私に要求してきましたし。

- あぁ。そうだよね。

- 「あんなデリケートな文章を書いてるんだから、
デリケートな人物でいてください」
という要求はいっぱいありました。
自分でもそうなのかなと思ったときもありましたよ。

- そうなんだ(笑)。
過剰に「デリケートじゃない」ぶる必要も
ないけど、いいね。
今回のまほちゃんの本には
デリケートとか感受性について
とりたてて触れてないね。

- 触れてないです。
でも、子どもには、デリケート、あって当然だから。

- あって当然、そうそう。
感受性は、呼吸の中に入ってますからね。

- うん。

(つづきます)
2015-12-14-MON






