『ごごのえいこう』
【『午後の曳航』】
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戦前からある島の学校は古く、
図書室に入るとすこしすえたにおいがした。
取り壊しの決定を受けて業者が入ったため、
本棚はあらかた空になっていたが、
傷んだ蔵書はそのまま残っていた。
ぼくは深い意味もなく棚から一冊抜き出して
ぱらぱらとその黄ばんだページをめくった。
三島由紀夫の『ごごのえいこう』だった。
本の最後には図書カードが昔のままに残っている。
そっと抜き出してそれを読んだとき、
ぼくは息が止まりそうになった。
そこには、白石さんの名前があった。
細くて、少し右に傾いた、彼女独特の文字。 |
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