「スコップ団」は、おもに
週末を使って、津波による被害を受けた家の
片づけや掃除をしています。
活動は山元町が中心で、
メンバーが集まるのも、現在のところ、
「土日の朝9時、山元町の山下駅」となっています。
糸井重里がTwitterを通じて
知り合いにならせていただいたこの「スコップ団」に、
まずは「取材」というよりも
「参加」をさせていただこうと思い、
事務局に問い合わせてみました。
「土日の朝9時に山下駅集合。
それだけが決まっています。
スコップするお宅はそのときによって違うので、
駅前にいる“SCHOP DAN”の
紺色のTシャツを着た人たちに声をかけてみてください。
持ちものは、長靴、マスク、タオル、軍手、
暑さ対策、飲みもの、昼食、着替えです。
ボランティア保険に入ってきてください」
そう教えてもらいました。
5名の「ほぼ日」乗組員
(西田、佐藤、甲野、田口、菅野)は、
教えてもらったとおりの準備をして
日曜の朝9時めざし、山元町の山下駅に向かいました。
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不通となっている山下駅の線路には
草が生い茂っていました。
駅の事務室の中はあの日のまま、
ときがとまっているかのようです。
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駅前にはほんとうに“SCHOP DAN”の
Tシャツを着た人がいて、
「スコップ団に参加、ですか?
今日はあちらのお宅をやりますから、
ついて来てください」
と、声をかけてくださいました。
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現場のお宅に到着すると、
スコップ団の人たちはさっそく
大きな家具を運び出したり、
危険な窓やドアを取り払っていました。
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我々もスコップを受け取って家の中に入りました。
しかし、しばし、
何をやっていいかわからない状態。
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見よう見まねで、
家に入っている泥を
スコップですくいあげました。
泥は水分と塩分を含み、ずしんと重く、
少量をすくい上げるだけでも
ずいぶん力が要りました。
2〜3回、泥をすくい上げ
ちりとりにあけた段階で、情けないことに
「今日一日もつかな」と心配になりました。
しかし、スコップ団の団長の平了さんが
「俺も、春まではすごい“なで肩”でしたから」
「重いものなんてなんにも持てなかったよ」
と遠まわしに励ましてくださいました。
よし、がんばりましょう。
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家の中はまるで、ずいぶん昔から崩れ
時間をかけて泥が入り込んでしまったように
見えてしまいます。
また、街自体、すでに大きな漂流物は
片づいていますので、
一見すると
以前から閑散とした場所だったかのようにも見えます。
当たり前ですが、そうではありません。
何もないように見える土地は、
あの日に、海が流してしまった場所です。
この家にある泥はすべて
あの日に、海からやってきた津波が
残したものです。
我々はとにかく家の中から外へ、
泥を何度も掻き出して運びました。
いくら運んでも、
泥はどんどん出てきます。
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トイレのタンクは泥でいっぱいにつまり、使用不可能。
洗面所の扉を開けた奥の奥まで、
津波のもたらした泥は入り込んでいました。
そして、ある「線」以上は
家がきれいであることに気づきます。
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その「線」から上は、
この家のお孫さんが貼ったポスターも
はがれず、濡れずに残っていました。
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波をかぶらなければ、
台所の食器も、ピアノも、本棚の本も、
きちんと整頓されていたのでしょう。
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すべてが整えられた部屋で、
明るい電灯の下で、
この家の人たちが寝て起きて
暮らしていたのでしょう。
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家のおじさんは
「出てきたものは
みな捨てちゃっていいんだ、いいんだ」
とおっしゃっていました。
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けれども、泥のなかからは
いろんなものが出てきます。
台所道具、洋服、食器、財布、洋服、
文房具、写真、トロフィーや寄せ書きや、
いつか描いた絵。
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棚から、大事そうに
箱にしまってあった絵が出てきました。
家のおじさんのところへ行って、
これを捨てるかどうか、たずねました。
「ああ、これは、孫のだな。
孫がいつだったか、描いたんだ。
大事かどうだか、わからないけど、
一応とっておくかなぁ。
孫はいま、大学3年で、街に住んでんだけど、
この家を見たくないっつって、
もう寄りつかないんだよ。
ぜーんぜん、だめ。寄りつかないの」
同じようなことを、
スコップ団の人たちからも聞きました。
「津波に遭った方の中には、
自分の家を見ることができない、
家に近寄ることもできない方が
たくさんいらっしゃいます。
それは、あの日のことを
思い出してしまうからでしょう」
一瞬にして、我が家がこうなった。
大事な誰かと会えなくなっていた。
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このスコップ団に参加する前に
団長の平さんのブログと
スコップ団のサイト、
事務局から送っていただいたメールを
みんなで読んでいきました。
書いてあったことで最も印象深かったのは
「正直なところ、きれいにしても
住めるようになるかどうかはわからない」
ということでした。
漂流物や泥で
いっぱいになってしまった場所は、
あのときまで
家族の団欒の場所であり、
その人の生活の基盤になるところだった。
そこを呆然と見るしかできない、
あるいは
近づくことも恐ろしいと感じている。
家のあらゆる場所に詰まった
おびただしい量の泥、
変貌した部屋、過ぎていく時間。
茂る草、はびこる虫、朽ちはじめる床。
自力ではどうすることもできない。
そこから、漂流物をなくし、
泥を掻き出して、
その家の人が大事にしている
思い出の品だけにできたら。
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泥に埋もれた家を前にたたずむと
きれいになった家を前にたたずむのでは、
もしかしたら、何かが違うかもしれない。
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まずは自分の家をぱっと見たとき、
「きれい」であるだけでいい。
それで気持ちが半歩でも
進むことができるのなら、やり続けたい。
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そういうことが、スコップ団のサイトや
団長のブログ、
事務局からいただいたメールに
書いてあったのです。
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(スコップ団のこと、次回につづきます) |