
第7回
選手の声
選手の声
糸井 |
プロ野球の選手の中でも、 巨人の選手になっている人たちなんていうのは、 いわばある時代には、 「俺は野球に関しては、日本一だ!」 だとか思っていたはずの、 プライドの高い連中ですよねぇ‥‥。 当然、ワルだって、いたでしょうし。 そういう選手たちを束ねることに関しては、 どういうことが、いちばん重要になるんですか? |
藤田 |
やはり、それ以上のものを、 自分で鍛えておかなきゃいけないですね。 「エリートを見ても別に驚かない自分」を。 自分はそういうことはぜんぶ経験して、 もう一つ上を、きっちり身につけているぞ、 といったようなことが、自分からにじみ出て、 選手側のほうも監督のその状態を、 自然に感じるようにしておかなきゃイカンですね。 エリートにとらえられて、 ポッポポッポついてまわっていたのでは、 それは、できないですね。 ですから、もうちょっとこう、 遠くから眺めているような顔をして、 時には、ズッコケてもイイですから、 そんな顔をしていれば、と言いますか‥‥。 |
糸井 |
ぼくからは、そう見えていました。 サル山のおサルが、 自然にボスザルを決めているみたいな、 そんなふうなチームに見えていたんですよ。 藤田さんが率いている時代の巨人は。 もちろん、いつのまにか ボス猿になっているのは藤田さんで。 |
藤田 |
最初は、ちょっと距離をおいていた選手たちです。 長嶋からの監督交代があってしばらくは、 選手たちが、距離をおいて 野球をやっていたことをよく感じました。 |
糸井 |
ええ、ありましたね。 |
藤田 |
だからぼくは、 徐々に徐々に、話しているレベルを同じにして、 バカな冗談を言ったり、 たまには若い選手が使っている流行語を 一緒になってわかったようにして使ったり‥‥。 |
糸井 |
そういうことを、意識的にしたんですか? |
藤田 |
ええ。意識的にやっていました。 |
糸井 |
藤田さん、選手と、ふざけてばかりいるように 見えた時がありましたよ。 でも、意識的だったんだ。なるほどなぁ。 ぼくは、藤田さんのことしか 近くで見ていなかったものですから、 藤田さんの選手への接し方は、よく覚えています。 選手と抱きあうようにしていたり、 絶えず、触りあっていましたよね? 「‥‥どうした?」みたいに、叩いたり。 ああいうものが監督なんだと思っていたら、 よそのチームの選手とかから、いろんな話を聞くと、 「監督と触りあうなんて、あり得ないですよ!」と。 ということは、 ぼくが見ていたあの監督というのは 特別だったのかな、と、あとでわかったんです。 「監督に会うこと自体が、めずらしい」 と言っていた人もいますね。 |
藤田 |
やっぱり、 選手は「同じ釜の飯を食う仲間」ですから、 できるだけ近い存在に なっていないといけないと思うんです。 そうしないと、肝心な時に動かない。 そう考えています。 |
糸井 |
あぁ、同じ飯、食ってましたよね。 絶えずふざけあっていて、 「じゃあ、俺はもう寝るぞ」 みたいな感じでしたよね‥‥。 ああやって、 若い人と同じ平面に立つというのは、 藤田さんにとっては、 ぜんぜん苦ではないんですね。 |
藤田 |
ええ、そんなに苦ではないです。 |
糸井 |
選手たちは、息子みたいに見えるんですか? |
藤田 |
そうですね。 息子みたいですね。 年が離れていますから、 そうとうこちらのほうが 若返ったようなことをやらないと、 選手はますます距離を置いてしまうんじゃないか、 ということがありましたし。 どうせやっているんだから、 たのしくやったほうが、 しかめっつらして、嫌な顔をしてやるより、 イイんじゃないかという気がしたものですから。 |
糸井 |
ただ、同じ平面に立つと、どうしても、 ヘタするとナメられてしまうというか……。 |
藤田 |
それはありますから、引くべき線は きちっと引いておかないといけませんね。 ここからは、入れない。 これは職分の違いですから。 それはしっかりしておく必要があります。 監督は、選手に 働いてもらわなければいけないでしょう。 ぜんぜん逆の立場です。 ですから、線というのはあるわけです。 そこからは、入りこんじゃいけないという線が。 |
糸井 |
ぼくが見ていると、 「大事にされているという感じ」みたいなものが、 藤田さんのチームの選手たちは、 わかっていたように思えたんです。 |
藤田 |
そうですか。 実際、ぼくはほんとうに 選手を大事にする気持ちは強かったです。 だから、 「きょうはどうだ?」 「きょうは大丈夫か?」ということを、 毎日ひとりずつ声をかけて聞くようにしましたね。 けっこう、選手にとっては うるさかったんじゃないですかねぇ、毎日。 |
糸井 |
親父みたいなもので。 |
藤田 |
でも、ぼくは聞かないと気が済まないんですね。 |
糸井 |
「こちら側が、気が済まない」んだ。 |
藤田 |
ええ。 選手が、「だいじょうぶです」と言うと、 あぁ、よかったと思う。 |
糸井 |
好調、不調が大きく結果を左右するのが、 選手という仕事ですから、重要な質問ですよ。 |
藤田 |
そうなんです。 ぼくがベンチにいて、 選手がどんどんグラウンドに入ってきますよね。 グラウンドに飛び出していく時には、 みんな、ワーッと行くんです。 ぼくはその声で判断するんです。 いい声しているか、こもった声をしているか。 それとも、うしろ向きの声をしているか‥‥。 「あ、きょう、コイツはまずい」と思うと、 早めに手を打って冗談を言ったり、 そばへ行って蹴飛ばしたりして、気分を変えないと。 それぞれの選手が、 いったい何を背負ってグラウンドへ来ているのか、 こちらとしては、わからないですから。 悪いものを背負っていると、 人に伝染しますから、 早くそれをいい方へ持っていかないと、 いい仕事をしてもらえないわけです。 ですから、気をつけました。声を聞くんです。 |
糸井 |
まるで、植木を育てるような言葉ですね。 |
藤田 |
同じですよ。 悪い芽が出ればつまなきゃいけないし。 |
糸井 |
そうですよねぇ‥‥。 |
2015-05-02-SAT
タイトル
体温のある指導者。藤田元司。
対談者名 藤田元司、糸井重里
対談収録日 2002年10月
体温のある指導者。藤田元司。
対談者名 藤田元司、糸井重里
対談収録日 2002年10月
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