40、「なかったこと」
友達のうちださんちの息子さんは
ものすごくかっこいい。
まるでマンガに出てくるかっこいい男の子みたい。
「これから、もう一人の友達が来るんだ」
うちださんのライブのリハーサルを見に行ったら、
彼はそう言った。
「しかも、その友達は女なんだ」
し、しびれます。
別れ際に、
「このあいだ会ったのは十年くらい前で、
君はまだ小さかったよ。
また十年会えなかったら、お兄さんになっちゃうね」
と私が言ったら、彼は、
「いや、そんなにはならないだろう、
きっと三回くらいは会えるだろう」
と言いました。
こんなかっこいいこと、
男に言われたことないですよ!
昔、うちださんは
いろいろな事情があるときだったけれど、
心を決めて彼を産みました。
そのときに彼女が電話でこう言ったことを、
よくおぼえています。
「だって、あったことを
なかったことにするのはいやなんだもん」
もしもなかったことにしていたら、
このかっこよさも、この優しさも
みんなこの世になかったことなんだ・・・と私は思い、
なかったことにしなかったいさぎよさを
あらためてありがたく感じたのです。
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