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ヒウおじさんの鳥獣戯話。 さぁ、オトナたち、近くにおいで。 |
第21回![]() UFOがunidentified flying objectの略であるように、
UMAといえばunidentified mysterious animalの略である。 前者を未確認飛行物体と訳すのにならえば、 後者は未確認謎謎動物とでも訳すべきだろうか。 いや、前者は厳然とした英語であるが、 後者はでっちあげの和製英語にすぎない。 だからそのままローマ字読みしてもかまわない。 UMA、すなわちウマなのである。 未確認謎謎動物ウマを実際に見た経験のある人は少なく、 その正体についてはいまも諸説紛紛である。 ![]() 一般的にウマはよく走る動物だと考えられている。 それは、駆ける、駈ける、馳せるなどの漢字が ことごとく馬偏であることからも明らかである。 なんでもディープインパクトというウマは、 薬まで飲んでフランスへ走りに行ったという。 なんでもハルウララというウマは、 負けても負けても負けても走り続けたという。 なんでもハイセイコーというウマは、 その走りっぷりが社会現象にまでなったという。 羚羊(カモシカ)も顔色を失うほどウマはよく走る動物らしい。 ![]() 馬偏の漢字といえば、駄も気になる。 これは本来「荷物を運ぶ」という意味の漢字である。 荷物を運ぶ動物という観点で考えれば、 案外ウマは牛に似た動物かもしれない。 思い当たるふしがある。 干支のウマは午であり、牛そっくりではないか。 角が出ていないからさしずめ雌牛か。 牛飲馬食ということばもあるくらいだから、 ウマも牛同様に大食漢で肉体労働に備えているのだ。 どうやらウマはよく走り、よく運ぶ動物のようだ。 ![]() 一説にウマは霊亀に劣らず霊感の強い動物だという。 神意を問う際にウマを使ったから、験という字が生まれた。 神社に奉納する絵馬も同じような意味合いに違いない。 そういえばかのイエス・キリストの出生時には、 ウマが立ち会ったという話が伝わっている。 かの聖徳太子は厩戸皇子と呼ばれるとおり、 生まれたときにやはりそばにウマがいたとされる。 聖徳太子と同時代の権力者、蘇我馬子にいたっては 名前のとおりウマの子だというではないか。 ウマはよく走り、よく運び、霊験あらたかな動物らしい。 ウマがおびえやすい動物という考えにも説得力がある。 でなければ、驚くという漢字の中に馬は出てこないだろう。 駭くという字も同様におどろくと読むから、 ウマはよほどびびりやすいのだろう。 子犬みたいに尻込みしがちな動物なのだろうか。 ウマがうるさい動物だという学説は、 ひとえに騒の字がその根拠になっている。 蚤(ノミ)にかたられた馬が騒の語源という説もあり、 であればウマそのものが騒がしいかどうかはわからない。 確実なのはウマは蚤がつく動物というだけだ。 ![]() ここまでわかったことを整理してみよう。 ウマは羚羊の如くよく走り、 ウマは雌牛の如くよく運び、 ウマは霊亀の如く霊験あらかたで、 ウマは子犬の如くおびえて、蚤を持つ。 これではまるでキリンではないか。 キリンといっても首の長いキリンではない。 体は鹿、尾は牛、顔は狼で角を持つ伝説のキマイラ、 麦酒のラベルでおなじみのあの麒麟である。 もしかして、ウマは麒麟なのだろうか? しかし、麒麟は鹿偏であり、馬偏ではない。 やはり麒麟をウマと考えるのは早計のようだ。 いや待て、鹿で思い出したことがある。 「馬を鹿」という故事があるではないか。 皇帝に献じた鹿を馬と言い張った秦の宦官、趙高の逸話だ。 存外ウマの正体は鹿なのかもしれない。 確かに鹿はよく走るし、よくおびえるし、蚤もつく。 神の使いにもなりやすいし、きっと荷物も運べるだろう。 馬鹿馬鹿しいって? そりゃあ、騙すというのも馬偏ですから。 ![]() イラストレーション:石井聖岳 illustration © 2003 -2006 Kiyotaka Ishii |
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2006-11-17-FRI
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