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ヒウおじさんの鳥獣戯話。 さぁ、オトナたち、近くにおいで。 |
第17回![]() ![]() 食べた後ごろ寝をするとウシになる。 そんな俗説を誰しも聞いた経験があると思う。 ウソに決まっているじゃない! とばかりに笑い飛ばしたのではないだろうか。 ところが本当だったのだ。 そう、ヒトは油断するとウシになるのだ。 気をつけろ!
ウシになるからといって急に乳が張るわけではなく、 体が白黒二色に塗り分けられるものでもないらしい。 ホルスタインに変身できるのならば、 ただで牛乳が飲み放題だし、 チーズやバターも自家製でまかなえるのだが、 神様はそれほど都合よくヒトの望みを聞き入れてくれない。 気をつけろ!
ウシになるからといって頭に角が生えるわけではなく、 手足の指がひづめに変わるってものでもないらしい。 見るからにウシっぽくなるのならば、 無理して会社で働かなくても許してくれそうだし、 納税も免除してくれそうなので楽なのだろうが、 仏様もそれほどヒトにたいして慈悲深くはないのだ。 気をつけろ! 食後すぐに横になると、胃に負担がかかる。 それでも体は食べ物を消化しようと懸命に頑張る。 するとわずかながら胃が伸びるらしい。 この繰り返しで胃はいつの間にかとっても長くなる。 しまいにはそれが四つに分かれてしまう。 反芻胃の完成だ。 気をつけろ!
胃が四つになると無性に野菜が食べたくなるという。 肉が好物だった御仁も途端に菜食主義者に転向する。 根菜や実になる野菜はややニガテで、 特に葉物を好むそうだ。 ほうれん草に小松菜、大根葉なんて最高で、 道端のタンポポやヨモギを見てもヨダレをたらす。 気をつけろ! 見た目はヒトとそっくりなので、 なかなかウシと見破るのは難しいらしい。 菜食以外の目立った特徴は、 なにかにつけてモォと不満をもらす口癖と、 赤い布を見るとたちまち興奮する習性だそうだ。 そんな牛化した人物が身近にいないだろうか? 気をつけろ!
牛化して一番困るのはゲップを連発してしまうことだ。 ウシのゲップには二酸化炭素がたっぷり含まれているので、 地球温暖化の一因となる。 京都議定書に署名し批准もしている日本においては、 温室効果ガス削減率マイナス6%の目標達成の 足を引っ張っることになりかねない。 気をつけろ! もうひとつの不安はBSEいわゆる狂牛病だ。 一般人よりも牛化した人のほうが格段に感染しやすい。 菜食に徹しているつもりでも、 スープや調味料に肉骨粉がまぎれこんでいるかもしれない。 米国の手先に過ぎない日本においては、 早晩輸入牛肉からBSEいわゆる狂牛病が広がるに違いない。 気をつけろ! 牛化した事実が周りにばれたら、 日本では肩身が狭いのは自明の理だ。 その場合思い切ってインドに移住してはいかがだろうか。 かの国ではウシは神聖な動物として崇め奉られる。 問題は自分が牛であることを証明できるかどうかだろう。 神聖な動物を騙る罪は大きい。 気をつけろ!
いっそ米国に渡ったほうがよいのかもしれない。 あちらの国は京都議定書を批准していないので、 思う存分ゲップしても怒られることはない。 万が一BSEいわゆる狂牛病にかかっても扱いが丁寧だ。 無害な食肉と偽って輸出してくれるはずだ。 死後は故郷の日本に帰れるのだ。 ばんざい! イラストレーション:石井聖岳 illustration © 2003 -2006 Kiyotaka Ishii |
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2006-05-11-THU
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