![]() |
ヒウおじさんの鳥獣戯話。 さぁ、オトナたち、近くにおいで。 |
第7回![]() 「わたしの青い鳥」という歌謡曲を覚えているだろうか。 大ヒットした桜田淳子のデビュー曲であり、 1973年のレコード大賞新人賞受賞曲である。 私は当時からこの曲を聴くたびに違和感を感じていた。 「ようこそここへ クッククック わたしの青い鳥」って、 どう考えても青い鳥が鳩のイメージで歌われているのだ。 初々しい淳子ちゃんがクッククックと連発するさまは、 ひとつ年下の私の視線をテレビに釘付けにしたが、 いかんせん青い鳥が鳩という解釈はいただけない。 淳子ちゃんのせいじゃなくて作詞の阿久悠が悪いのだが。 たしかにアオバトという鳥はいる。 日本全国の森林に普通にいる。 が、この鳥は青くない。 日本語表現の奥深いところだが、ここでの「あお」は緑。 アオバトは全身緑色の丸々と太った鳩である。 この鈍重な鳩が幸せを運んできてくれるとは信じがたい。 ![]() 阿久悠よりも森本太郎のほうがロマンチストなのだろう。 ザ・タイガースの名曲「青い鳥」の冒頭はこうだった。 「青い鳥を見つけたよ 美しい島で 幸福はこぶ 小さな鳥を」 そこらの山に行けば見られるアオバトなんかじゃなくて、 青い鳥は美しい島でひっそり暮らしているというのだ。 改めてこの歌詞を読んで思いついたことがある。 青い鳥とは奄美大島にいるルリカケスのことではないか? 鹿児島県の県鳥にして天然記念物。 頭や翼の光沢のある青が美しい鳥、ルリカケス。 でもやっぱり違う。 私は奄美に移住して5年、 毎日のように観察を続けているが、 いまだにかの鳥が幸せを運んでくるのを 目にしたことがない。 ルリカケスが運んでくるのはギャーという濁った鳴き声と、 えさのドングリばかりなのだ。 そもそもルリカケスはカラス科の大きな鳥である。 カラスじゃヤだ、青い鳥は可憐な小鳥であって欲しい。 ![]() 日本の歌謡曲を参考にしたのが間違いだった。 原典であるメーテルリンクの「青い鳥」に戻るべきだろう。 クリスマスイブの夜のこと、チルチルとミチル兄妹の前に ひとりの妖婆が突然現れ、青い鳥を探してきてくれと頼む。 妖婆がくれた帽子でなんでも見えるようになったふたりは、 光、火、ミルク、パン、犬、猫の精などを連れて旅に出る。 「思い出の国」では死んだ祖父母や弟、妹たちと再会し、 「夜の御殿」では世界の裏側の幽霊や病気の影を見る。 「森」では人間に対する木々や動物たちの怒りを聞き、 「幸せの国」ではお金にはかえられない本当の幸せを知る。 いくつかの国を旅する途中で青い鳥の姿を目撃するが、 結局捕まえることができずにふたりは森の家に帰宅する。 すると貧しく何もなかったはずの家がなぜか輝いて見える。 いつの間にか飼っていた鳥が青くなっているのだった。 そして喜んだチルチルが手を伸ばすと、青い鳥は飛び去る。 とっても象徴的・神秘的な内容の童話である。 ![]() このストーリーの中に青い鳥の正体が隠されているはず。 よく「青い鳥」とは「幸福」そのものではなく、 「幸福を求める心」の象徴だとか言われている。 でもいまはそんな訳知顔の議論は不要なのである。 注目するべき点は、青い鳥は籠の鳥だったということ。 その事実から青い鳥を考えてみる。 飼い鳥で青い色の小鳥は‥‥いたいた、セキセイインコ! セキセイインコは漢字で、背黄青鸚哥と書く。 字面からもいかにも青っぽそうではないか。 が、残念、この「あお」もアオバトと同じく緑のこと。 セキセイインコの原産地オーストラリアでは、 黄緑色のインコたちが何千羽もの群れで飛び回っている。 ペットショップで見る青色のインコは品種改良した高級品。 ヨーロッパの森の家でつましく暮らすチルチルとミチルに、 舶来の高級ペットが飼えたとも思えない。 青い鳥はセキセイインコでもなかった。 ふたりはきっと近くの森で野鳥を捕まえて飼っていたのだ。 さて、物語の中にはもうひとつヒントが隠されている。 鳥は最初青くなかったのに、いつの間にか青くなっていた。 つまり青い鳥は変色するらしいのだ。 ![]() そんな野鳥がいるものかと思っておいでのみなさん、甘い! おあつらえ向きに青く色変わりする小鳥がいる。 その名もルリビタキ。 目がクリっと愛らしいスズメくらいの大きさの鳥で、 若いオスは地味な褐色だが、何年かで鮮青色に衣替えする。 日本にも生息していて、バードウォッチャーの人気の的。 こいつこそ幸せの青い鳥にふさわしい気がする。 問題はこの青い鳥をどうやって捕まえるかということだが、 現在日本では野鳥を捕獲することは法律で禁止されている。 捕獲には鳥類標識調査資格という環境省のお墨つきが必要。 資格をとれば、調査目的に限り、かすみ網で捕獲ができる。 一般人が幸せの青い鳥を手にするなんて見果てぬ夢‥‥か? ははははは。 実は、私は鳥類標識調査資格を持っている。 全国で500名くらいしかいない有資格者のひとりなのだ。 はははは。 合法的にかすみ網を使うこともできるし、 申請すれば各種の野鳥を捕まえることだってできる。 ははは。 でもって、過去にルリビタキを捕まえたこともある。 捕まえたことはあるのだが、なぜか幸福はこない。 はは‥‥。 あ、ルリビタキってヨーロッパにはいないんじゃん! イラストレーション:石井聖岳 illustration (c) 2003 Kiyotaka Ishii |
鳥飼さんへの激励や感想などは、
メールの表題に「鳥飼さんへ」と書いて
postman@1101.comに送ってください。
2004-10-07-THU
![]() 戻る |