ご無沙汰しております。
『フィンランドのおじさんになる方法。』の連載から、
何年かの時が過ぎました。
相変わらずおもしろいおじさんたちが周囲にはいて、
自分の人生を自分の足で歩いていくことって
なんて魅力的なんだろう、
なんて幸せだろうと、
おじさんを見ていて思います。
最近も
「65って定年なのに、
俺、65で手を広げてるぜ」
という漁師さんがいました。
この人のことも、
いずれご紹介できたらいいなあと思う、
魅力的なおじさんです。
さて連載に登場していただいたおじさんたち。
中にはなかなかお目にかかれないままの人もいるし、
今でも連絡をとりあっている方もいます。
当時のまままっすぐに生きているおじさん、
びっくりの展開をみせたおじさん、
そして故人になられた方もいます。
今日からまた、
連載時に登場いただいたおじさんたちの、
その後を少しお話させていただこうと思います。
まずはアコーディオン楽団のカリさんとエーリクさんから。
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彼らと知り合って、
私はフィンランドがずっと大切にしている
ダンスの文化のことをたくさん教えてもらいました。
男女の出会いにダンスがあること、
ダンスがなによりもの長寿の秘訣になっていること、
ダンスが村一番のお祭りになること、
ちょっとしたチャリティーとしても
ダンスが貢献できること。
ああ、そして、続けることが義務や意地になったら、
足をいったん止めてごらんなさいとうことも。
カリさんとエーリクさんが率いるタンメルハヌリ楽団は、
フィンランドのアコーディオン楽団の中でも
評価の高い楽団です。
本人たちの自覚も相当なもので、
フィンランドじゅうのアコーディオン楽団が
総勢300人舞台にあがって演奏したときも、
彼らは最前列の真ん中に陣取っていました。
彼らのお祝いコンサートは、
チケットの入手が困難なほど。
彼らが演奏するならと、
遠方からやってくる常連さんたちもいます。
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もともとはのんびりと楽しみながらやってきた、
おじさん&おじいさんたちの楽団ですが、
少しずつその流れに変化が生じてきました。
「うまくなることより、私は楽しんで演奏したいから」
‥‥そういって楽団を退団したおじいさんたち。
思えば連載のための取材のときも、
エーリクさんは少しずつ
自分の趣味に没頭していく感じではありました。
楽団のクオリティーを上げたいと力を注ぐことも
容易に想像がつきます。
取材後も、私は何度か彼らの演奏を聴きにいきました。
時々エーリクさんとトゥーラさんの
お宅に泊めていただいたりして‥‥
エーリクさんが子供の頃に夏休みの宿題で作ったという
草花採集の押し花標本を見せてもらったりもしました。
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ある夏の日のこと。
それはカリさんやエーリクさんの
少数精鋭のバンド編成の会でした。
とある村の個人のお宅にある納屋でダンス!
というのです。
それは昔からフィンランドの
あちこちの村で行われてきたお祭りのようでした。
行くと、庭にはいくつかの屋台がでていて、
くじ引きなんかもやっています。
納屋はきれいに掃かれ、
そこにコーヒーの粉がまかれていました
(これがダンスのステップにいいのだそうです)。
普段は薄暗い納屋ですが、
扉が開け放たれて光が差し込みます。
裏の畑の向こうから、
自転車で一列になった家族が
こちらに向かってやってきます。
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赤ちゃんからおじいさんおばあさんまで。
主催された家は何人かの里親をしているお宅で、
この会もチャリティーを兼ねていました。
ある秋の日は、大人数の編成で行われた
公民館でのコンサート。
楽団員の奥様たちが
休憩時間に売るコーヒーやケーキの準備、
そして楽団員たちのおやつも用意しています。
じっくり聴かせる第一部、
皆で踊って盛り上げる第二部。
彼らの演奏は不思議な一体感がいつもあって、
そして確実に浮いているだろう見学気分の私を、
誰かしら誘ってくれて踊りの輪の中にまぜてくれます。
「あなた、初めてのポルカで完璧じゃない!
(私は何度初めてのポルカを踊ってるんだろう)」
って必ず誉めてくれる人たちがいて。
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真摯に生きていると、
途中どうしても以前のままではいかない事もあるけれど、
それでも多くの人たちを楽しませ、
幸せが漂う空間はずっと変わらずある。
タンメルハヌリ楽団は忙しい秋を迎えようとしています。
新しいCDも出ました。
そのお祝いも兼ねて、
久しぶりに彼らに会いに行ってみようかな。
(つづきます)
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