 |
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印刷会社の方から見た、
手でおさえなくてもパタンと開く
「糸かがり」製本の魅力を教えてください。 |
小林さん |
「万葉集」をはじめ昔の本は、
糸でかがった「和綴じ」と呼ばれる方法で
製本されていました。
「和綴じ」ほど古くはありませんが、
洋服を縫うように
糸で紙を縫っていく「糸かがり」も、
古くから伝わる製本方法なんですね。
ただ「糸かがり」は、
手間がかかる分コストも高いので、
製本技術が進化していく時代の流れの中で、
「無線綴じ」や「網代(あじろ)綴じ」といった、
安くて短期間に大量につくれる製本が
主流になっていきました。
私が担当させていただいた
愛知万博博覧会の「日本館」のパンフレットは
糸でかがった「和綴じ」でつくったのですが、
手間も時間もかかりました。
でも、出来上がった現物を見ると、
よく開いて、文字も読みやすくて、
やっぱり素晴らしいんです。
そういう意味で、書き込みスペースがたっぷりで
名言が載っていて
「読む手帳」でもある「ほぼ日手帳」が
「糸かがり」製本を採用しているのは、
当然のことだと思います。 |
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手帳本体がパタンと開いたときに、
背の部分がとてもやわらかくなっていますが、
背をやわらかくするために、
どのような工夫をされているのですか? |
小林さん |
パタンと開くためには、
やわらかい糊(のり)を使うことがポイントです。
通常の本などで使われている
「網代(あじろ)綴じ」などの製本方法では、
「ホットメルト」という非常に強力な接着剤で
背をガチガチに固めてしまうのですが、
それだと背表紙が硬くなりすぎて、
「ほぼ日手帳」のように、パタンと開きません。
ですから、「ほぼ日手帳」の場合、
やわらかい糊(のり)を採用しています。
その糊(のり)については、企業秘密ですので、
残念ながらお教えできないんです。
もうしわけありません! |
 |
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「ほぼ日手帳」の手帳本体を製作する上で、
とくに気をつけていらっしゃるのは、
どういうところですか? |
小林さん |
やはり、手帳は毎日使うものなので、
一年間の使用に耐え得る「強度」を持たせることに、
もっとも気を配っています。
毎日、手帳を開いたり閉じたりするのには、
手帳本体自体に強さが必要ですからね。
凸版印刷の技術をかけて、
手帳本体の強度を進化させたのが、
「背のテープ」と「見返しの紙」です。

手帳本体の「背表紙の部分」。
まず、「背のテープ」。
本体を糸でかがって、
背の部分をやわらかい糊(のり)で、
ある程度固めたあと、製本テープで留めます。
この製本テープも、
いろいろな種類の製本テープでテストした中で、
一番、開きやすく耐久性のある
布のような質感のものをえらびました。
さらに、背の部分と製本テープをくっつけるために、
「寒冷紗」というガーゼのような繊維を
背と製本テープの間に1枚噛ませることで、
糊(のり)を通しやすくしています。
「寒冷紗」は繊維ですので、
ボンドを良く通し、紙によく馴染むんです。
そこにさらに「熱」などを加えることによって、
本体と表紙、背表紙の部分の強度があがります。
現在、この熱をくわえる機械自体が、
非常に少なくなっていて、
なかなか見られない、
かなり特殊な製本方法なんですよ。
さらに、手帳本体の「強度」をあげるために、
もうひとつ大事なポイントが、「見返しの紙」です。
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手帳本体の「見返しの紙」。
この見返しの紙が、手帳本体全体を支えています。
その紙が破れてしまうと、
手帳本体の強度がすごく弱くなってしまい
手帳本体がばらけてしまうため、
私たちは、見返しの紙(黄色)も、
かなり慎重にえらんでいます。
世の中によくある手帳ですと、
通常見返しの紙は、
色上質紙を使用するのですが、
2006年版ではじめて
「ほぼ日手帳」の手帳本体の製作を担当したときに、
見返しの紙を色上質紙で作成しましたら、
色上質紙が破れてしまいました。
そこで、製本担当の部隊と相談して、
手帳本体を支えることができる強度を持った
特別な紙を使用することにしました。 |
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凸版印刷では、一年間の使用にも耐えられるように、
かなり厳しいテストをしてくださっていると
伺っておりますが。 |
小林さん |
はい。
紙は「ほぼ日手帳」の初年度版から、
ひきつづきトモエリバーを使っていますから、
それ以外で、弊社で変えられるところは、
すべてテストをしています。
表紙、背のテープ、見返しの紙、
それぞれ8種類くらいずつピックアップして、
束見本をつくり、
3000回、
ページを開いたり閉めたりのテストもして、
いま現在の仕様になっています。
ですので、見返しの紙も、背表紙の部分も、
この仕様がベストだと自負しています。
「ほぼ日手帳」の製本は、
凸版印刷としても、自社で作った製品として、
宣伝したいという話が出ているくらいなんですよ。
「ほぼ日手帳」は、
手帳専門の部隊がつくっています。
手帳は、小さい機械で、
折り方も含めて、
専門の技術や機械が必要なんですね。
それに、
トモエリバーは非常に薄い紙なのですが、
薄い紙を製本するのは、
非常にむずかしい技術なんです。
そういうこともふまえて、
手帳として、
どういうことに気を遣わなければいけない
ということを考えながら、
手をかけて、ていねいにつくっています。
手帳は、パーソナルなものですので、
一年間大事にお使いいただく製品として、
品質管理には、とにかく気をつけています。
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小林さんは「ほぼ日手帳」愛用者のおひとりでもあります。
2005年版のオレンジの革カバーがお気に入りなので、
手帳本体を毎年購入くださっているそうです。 |