人の手でものづくりをしていく。デザイナー岡本菜穂さんと、この10年を振り返る 人の手でものづくりをしていく。デザイナー岡本菜穂さんと、この10年を振り返る
ジュエリーブランド《SIRI SIRI》とほぼ日がつくる、
スポットライトのようなジュエリー《HOBO SIRI SIRI》。

アコヤ貝がぐうぜんつくりだす、
美しいナチュラルグレーの真珠を使った
《HOBO SIRI SIRI Pearl Collection》でデビューし、
今年は10回目という節目のコレクションになります。

デザイナーの岡本菜穂さんの
研ぎ澄まされたデザインとあらたな挑戦。
幾度もものづくりを見つめ直しながら進んできた
HOBO SIRI SIRIの10年を、
長く担当する乗組員とともに振り返り、
最新のコレクションについてもご紹介します。
03

ジュエリーの世界からの広がり。
HOBO SIRI SIRI Pearl Collectionの
10回目を記念したコレクションについても
お話を伺えたらと思います。
節目の今回、特別な取り組みとして、
これまでのコレクションの中から人気のアイテムを
復刻するのと合わせて、
あらたなデザインも発表します。



岡本さんが挑戦してみたかったとお話されていた
個性のある一粒パールのネックレス、
「限定ひとつぶバロックSV」ができました。
写真
岡本
私もこのバロックパールのネックレスは
念願だったので、できあがってうれしいです。
個性豊かなアコヤパールが目を引きますよね。
岡本
宇和島を訪れたときに、
バロックと呼ばれる個性の強い素材を手にして、
素材としての力強さといいますか
魅力がすごくあると思いました。
販売やお届けの仕方を工夫してラインナップできたら、
10回目の特別なアイテムとしていいなと思ったんです。



一見シンプルに見えるのですが、
形も色も一つひとつ表情の違うパールを選びました。
実は、ネックレスのために使えるパール
というのは数が少なくて、
胸元で揺れても丈夫なものを、
ひと粒ずつ厳選しています。
唯一無二のネックレスなので、
自分だけの相棒になるようなイメージで
デザインしました。
写真
「ロングネックレスSV」は、
これまでにないデザインですよね。
岡本
パールの配置をすごく大事にデザインしました。
パールを不規則に、チェーンの上にならべて、
リズミカルに配置したのがポイントです。
こういうグラフィカルにデザインしていくことを、
ロングネックレスで表現できたのがよかったです。



チェーンの形状が四角いボックスのようで、
光をきれいに反射するベネチアンチェーンは
パールの丸みとの組み合わせが
おもしろいなと感じます。
ネックレスを持っている岡本さんの目が、
チェーンの反射でキラキラに光っていますね。
岡本
身体の動きに合わせてキラキラと光るので、
すごくきれいなんですよね。
ジョイントパーツを目立たないようにしてあるのも
好きなところです。
「パールとガラスのリング」は
HOBO SIRI SIRIらしい組み合わせですよね。
写真
岡本
HOBO SIRI SIRIらしさを思いっきり感じられるのは、
ひさしぶりかもしれないですね。
10回目ということで、原点回帰しました。



SIRI SIRIらしいサークル状のガラスのリングに、
小さなアコヤパールをのせました。
パールをリングにのせる深さは、
ガラスとパールの相性から
ガラスのえぐり具合を何度もテストして、
ようやく見つけたバランスです。
異素材を組み合わせるときに、
岡本さんが大事にされている“調和”という部分は、
やはりとても気にされるところですか?
岡本
それは、かなり意識しているところです。
異素材を組み合わせると、
その素材を扱ううえでの技術の違いですとか、
まとう輝きかたですとか、
両者の質の違いがすごく気になってしまいます。



どちらかがきれいで、どちらかが安っぽい
異素材同士の組み合わせってよくあるんです。
それを見ると「もったいないなあ」と思います。
わかります。
ネックレスのペンダントトップだけきれいで、
チェーンが安っぽいと「これかあ」と。
岡本
それが気になってしまうんです。
なので、SIRI SIRIも
いい素材を使っているので、
それに見合った職人さんの技術を頼りに、
細かな金具も台無しにしないように選んでいます。



パールとガラスの場合も、
私は全体の雰囲気を調和させたいので、
両者の質を一緒にするようにしました。
どのような調整をされたのでしょうか?
岡本
ちょっとした違いですが、
リングの場合、はじめのサンプルは、
パールを乗せるガラスの溝が
熱で溶けたままのラインにしていました。



ただ、パールが乗っかっている様がしっくりこず、
ガラスとパールが一体になるように
リューターという電動工具を使って、
パールのフォルムに合わせてガラスに溝をきっちり彫り、
さらにミリ単位で
パールのおさまりのバランスを設計しました。



細かい作業ではあるのですが、
リングがまとう雰囲気というのは
つけた方も気づくと思うんです。
細部まで意識してつくられたものだと
伝わるように、手をかけています。
「チャーム」はパールをいろいろな装いに
取り入れられる、ユニークなアイテムですよね。
ジュエリーじゃないパール、
というのがおもしろいです。
写真
岡本
あえて丈夫なカラビナと組み合わせることで、
パールをカジュアルに使ってもらえるようにしました。
インダストリアルな雰囲気のものは
他にはないと思います。



ベルトループに通していただいたり、
バッグに付けていただいたり、
紐やチェーンを通せばネックレスとしても
使っていただけます。
継続・復刻のアイテムは、
どれも時間が経っても魅力が継続している、
HOBO SIRI SIRIが誇るジュエリーばかりですね。
岡本
スタンダードなものから個性的なものまで、
幅広くラインナップしましたよね。



昨年発表した「パールのシングルピアス」は、
この中では個性が光るアイテムだと思います。
それこそ、HOBO SIRI SIRIのテーマの通り、
これを一つつけるだけでおしゃれに見えますし、
その人の個性を引き出すようなものになっています。
四つ葉のクローバーを
イメージした4粒のパールなんですよね。
写真
岡本
そうなんです。
同じくらいのパールを4粒揃えないと
バランスが悪くなってしまうので、
どの4人グループにするのか
人の目でクラス分けをしました。
0.01ミリの世界でしたね。
素敵な窓辺のようなイメージもあり、
どういったインスピレーションから
このデザインが生まれたのだろうと思いました。
岡本
私のデザインは抽象なので、
具象はあまり使わないんですね。
SIRI SIRIで「SHALA SHALA」という
コレクションがあるのですが、
アールデコの雰囲気を取り入れたもので、
「パールのシングルピアス」も
そのイメージに近いものがあります。
ファーストコレクションで発表した
「パールとガラスのピアス」や
HOBO SIRI SIRIの定番アイテムである
「ぜんぶパールネックレス」など、
こうして年代を超えて揃えてみると、
岡本さんのなかで通底するものが見えてくる気がします。
写真
岡本
シンプルなことですが、
自分がつけたいと心から思えるデザインであることを
最低ラインにしています。



覚えているのは、スイスの美大のオリエンテーションで、
素材のセレクトについて学んだときのことです。
大学の工房にはたくさんの素材があり、
その中から組み合わせをして一つのオブジェをつくる、
という授業がありました。



私は、自分らしく調和のあるものをつくったのですが、
クラスメイトの中に自分はきれいだと思えないものを
あえて集めてみた、という方がいたんです。
自分もそうしたアプローチで
デザインしてみようかと考えることもありますが、
それはアートのアプローチ方法に近いと思います。
ユーザー目線よりも、
自分のメッセージを尊重することが
アートのアプローチに。
岡本
デザイナーの仕事というのは、
ユーザーに使ってもらってこそだと思うので、
私のデザインはそういう目線が大事になります。
現在岡本さんがデザインされているものとして、
スイスではガラスのランプをつくったと伺いました。
岡本
大学院の修士課程のいっかんで、
4、5年前にデザインしたものです。
リサイクルガラスを使って、
スイスのガラス工房さんと制作したのですが、
向こうで賞をいただいたんですね。
その影響もあり、未だに問い合わせをもらうので、
製造を手伝ってくださったガラスの職人さんたちが
自社で開発してくれることになりました。
私は図面を組んでお渡しをします。
電気系統の問題があるのですが、
日本でもいつか発売したいです。
以前から「ライフスタイル全般のデザインをして、
表現の幅を広げたい」と仰っていましたもんね。
岡本
インテリアや建築について学んだことや
空間デザインの仕事が私のベースにあるので、
身につけるものに限らずデザインをしたいですね。
ガラスなら扱いやすく、
空間の表情を作る役割がある照明は、
インテリアの中では
得意なデザイン分野だろうと思ったので、
まずは照明からはじめましたが、
オブジェやテーブルウェアなども取り入れて、
SIRI SIRIの世界観をつくっていきたいです。



ヨーロッパでは、
ルネ・ラリックがジュエリーも照明も
香水のボトルもデザインし、
バカラはシャンデリアからジュエリーまで、
あらゆるガラス製品を作ってきました。
ブランドの歴史は自由に変化していくものだと思うので、
私も垣根なくデザインをしたいです。
写真
SIRI SIRIらしさは維持しつつ
垣根なくデザインをしていくことで、
岡本さん以外の方が
デザインをする可能性もあるのでしょうか。
岡本
私は、ブランドをはじめた当初から、
それもいいなと思っていました。
なので、自分の名前をブランドの冠にしていません。



インテリアの世界から
デザインというものに憧れを持ったので、
一つのメーカーにいろいろなデザイナーがいて、
そこから名作が生まれる歴史を見てきました。
今はこういうかたちを取っていますが、
いろいろなデザイナーとSIRI SIRIの技術を使って
ものづくりをするのはおもしろそうですよね。
まだまだやりたいことがたくさんありますね。
岡本
たくさんありますね。
ただ、こういう未来を想像していなかったので、
とくにAIの登場はものづくりにおいての
転換点だと思っています。
いろいろな考えがあるなかで、
SIRI SIRIとしては技術を大切にしてきたので、
人の手の力でものづくりをしていくことを
大事にしたほうがいいかなと思っています。



私は、立体のアイテムの場合、
模型を作るようにしているんですね。
パソコンの画面の中だけでものづくりをしないように、
模型に手を加えて、かたちを確認して、
最終的に完成形のデータをパソコンに落とし込む。
そういう手作業が入る工程が
貴重な時代がやってくると思うので、
ものづくりをする立場としてどうするべきか、
考えながらも大切なことを
見失わないようにしたいなと思います。
写真
(おわります。)