孫兵衛さんの「どら焼き」のこと。

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取材の日、孫兵衛さんは
どら焼き用のあんこを炊く作業をしていました。

「どら焼きのあんこには、
2通りのつくりかたがあります。
粒あんを柔らかく炊いて
そのままバットに流すやり方と、
もうひとつは炊くときに寒天を入れて柔らかくし、
最後に砂糖と水飴にも寒天を入れて合わせるやり方。
今の昆布屋孫兵衛は、後者です」

「今の」というのは、
かつて孫兵衛さんが切り盛りしていた和菓子屋の時代は、
前者のつくり方だったのだそうです。
今のどら焼きは、その時のものよりも、
ずっとやわらかくしています。

「息子の意見ではなく、
ぼくが勝手に少しずつ変えているんです。
分からないくらいの少しずつのマイナーチェンジです。
急に変わったら、お客さんもびっくりしちゃうから」

どら焼きを手で割ったときの
独特の「しっとり」感は、それゆえ。
あんこは炊いてから2日間、
皮も焼いてから2日間、
冷蔵庫で寝かせてから組み合わせ、
さらに2日寝かせてから店頭に出します。

つやつやと光るあんこは、
最後に水飴を入れるゆえ。
最初に使った砂糖が
ザラッとした食感に戻らないようにし、
艶出しをする効果があるのだそうです。
ちなみに小豆は兵庫丹波の氷上町産の「黒さや」、
2Lという大きな粒のものを使っています。

甘さについては、「ほぼ日」内で試食をしたときに
「とてもはっきりした強い甘さがある」
と思った人もいれば、
「あっさりとしていて、甘すぎない」と感じた人もいて、
ここでどんな表現にしたらいいのかを迷いました。
(数では、後者のほうが多かったです。)
あんこに隠し味の塩を使っていないので、
いわゆる「きりっと引き締まった味」とは違いますが、
「まっすぐ、スッキリした甘さ」とは言えます。
寒天で仕上げたことと、皮の味と食感とのバランスで
一緒に食べたとき、
あんこのしっとりした食感を強く感じます。

孫兵衛さんの、どら焼きの皮づくりのポイントは、
なるべく空気を抜くことです。
こういう焼き菓子は焼き上げたときに気泡ができますが、
孫兵衛さんはなるべくその気泡を抜き、
細長い縦の形状の「鬆立ち」(すだち)に
なるようにしています。
具体的には鉄板にのせた生地を下火だけでなく
蓋をして蒸し焼きにすることで、
生地が上下に引っ張られることで、
縦長の「鬆立ち」になるんですって。

名店と呼ばれる和菓子屋さんでも、
気泡か鬆立ちかはつくり手の好みだそうで、
孫兵衛さんの古巣の店は「気泡系」。
孫兵衛さんは、福井に戻ってから勉強をし直して、
いろいろな方法を試し、
「これがいちばんおいしい」と思う、
鬆立ちのある皮づくりにしたそうです。

「食べたときの『戻り』が違うんですよ」

戻りというのは皮の弾力。
しっとりしているけれど、
噛んでもつぶれすぎない、
そんな独特のやわらかさがあるんです。

あんこには使わなかった塩分ですが、
皮には隠し味の醤油が入っています。
ふんだんに卵を使っていることもあり、
コクのある生地になっています。

ちなみにこのやり方は、あくまでも今のもの。
「すこしずつ変えていく、
進化させていくつもりがあるんですよ」
と、作業の手を止めないまま、
孫兵衛さんは笑いました。

2025-10-17 THU

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