「ベア1号」を開発した当主の福森雅武さんと、
「ほんとにだいじなカレー皿」をつくった
福森家の四女、道歩さんのことは、
これまでも何度かこのコンテンツで紹介してきました。
今回は、あらためて、このふたり以外のみなさん、
「土楽」で土鍋や器づくりに携わっている
職人のみなさんを紹介させていただこうと思います。
わたしは、道具をつくる職人です。
──富田善夫さん
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富田善夫さんは、
福森雅武さんのほかに
「ベア1号」の大きさ(尺)以上の
大きな鍋をひくことができる、
唯一の職人です。
それは、ろくろをまわして、手でひとつひとつ成形し、
削りをかけて形を整えるという、熟練を要する技術です。
「わたしは、
ここにきてから、約7年になります。
それまでは、京都の清水焼きの窯元で、
ろくろをまわしていました。
あっちは磁器でこっちは陶器だから、
さいしょ、慣れるまでは苦労しました」
富田さんは、京都の出身です。
陶芸と出会ったきっかけは、
工業高校に通っていた頃の同級生である、
清水焼の窯元の息子さん。
遊びにいったときに「面白そうだ」と
思ったのだそうです。
卒業後、いったんガラス工場につとめに出るものの
機械の番をする仕事よりも
ものをつくる仕事がしたいと、
陶工訓練校に通い、成形の勉強をして、
清水焼きの窯元に弟子入りします。
以来、三十数年の間、
ずっとろくろをまわしてきました。
そして今は、土楽でろくろを回し、寡黙ながら、
とても大きな存在となっています。
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「わたしの場合は、
できあがったものの善し悪しは、
最後に手で持った感触で判断します。
言葉で言うのはむずかしいのですが、
(土鍋や片手鍋など、つくる道具の)用途によって
その感触は変わりますから」
それは、あえて言えば、
「重さ」ということになるそうなんですが、
でも、どうも、単純にそれだけでもないようです。
「そういうのは、体で覚える、
たくさんつくってみてわかるしかないでしょうね。
土鍋などの道具をつくるには
技術的なことが大事なんだけど、
やっぱり、10年はかかりますから」
毎日、現場を見に来る福森さんとは
微妙な丸み、深さ、厚みなどについて、
ここはああしたらいい、
こうしたほうがいい、と言葉を交わすそうです。
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話をうかがっているあいだ、
富田さんがなんどか口にされていたのは、
「仕事のおもしろみ」という言葉です。
それは、できないことをできるようになる喜びや、
ものができあがってくる喜びを指しています。
彼の胸のなかに高校時代からずっとある
「ものをつくりたい」というまっすぐな想いと、
「おもしろみ」という仕事をたのしむ想いのなかから、
「ベア1号」も成形されているのだと思うと、
なんだか、あらためて、嬉しくなってきてしまいます。
もっと技術を、もっと心を。
──中村周平さん
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中村周平さんは、職人になって5年の若手です。
ろくろをまわして、土鍋の成形をしていますが、
まだ富田さんのように、
大きな鍋をひくことはできません。
それでも、6寸の鍋をひかせたら、なかなかのものだと
「土楽」で認められている存在です。
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ろくろを回す大変さを、
オフィスワークの経験もある彼は、
会社でつとめる人にも
わかりやすいたとえで説明をしてくれました。
「たとえば、
エクセルで表をつくるという作業は、
時間をかけて、人に聞きながら、四苦八苦したら、
なんとか、ひとつの形にはなりますよね。
でも、土鍋に限らないことですが、
焼き物の場合は、
やってもやっても形にできないことがあるんです」
そんな苦しい、長い時間を経て、
いま、小型の鍋ならばひけるようになった中村さん。
今は仕事がたのしくて、
みずから土日にもろくろの前に座っているのだそうです。
「自分は職人になってまだ5年です。
それでも、
見えなかったものが見えるようになってきた。
何十年もこれをやってきた
福森さんや、富田さんを、
あらためてすごいなぁ、と思います。
見えているものが
全然ちがうんだろうなぁって思うんです」
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やればやるほど奥深い世界だということに
中村さんは気づいて、
それがまた、彼の闘志に火をつけているようです。
伊賀の自然を愛し
土楽からすぐ近くの一軒家に
妻子と暮らしている中村さんは、
腰を据えて、陶芸の道をきわめていくということを、
心に決めています。
いま、土楽で修業する新人たちから、
さいしょの目標にされる存在が中村さんですが、
彼は彼で、さらに高いところを目指して、
どんどん技を深めていくのでしょうね。
いま以上のクオリティを。
──安井正直さん
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ろくろをまわしている人だけが
土楽の職人ではありません。
安井正直さんは、
釉薬をかける職人です。
安井さんはとてもシャイな方で、
「釉薬をかけるときに、
気をつけているところとかあるんですか?」
なんて聞いても、
自らの技を誇るような言葉は決して並べてくれません。
でも、よくよく見ていると、
ひとつひとつの鍋にとても丁寧に
釉薬をかけているのがわかります。
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「ときどきは展示室に
確認のために見にいくようにしてます」
展示室というのは、
「土楽」の敷地内にある器を並べた
ショールームのことです。
ここには、福森雅武さんが手がけた、
うつくしい器や陶仏はじめ、
職人たちの手による器や土鍋が
ずらりと並べられています。
ここで、釉薬のかかり具合を
チェックして、
釉薬の色やツヤがずれたものにならないように、
調整しているのだそうです。
「わたしは、自分でも器が好きなんですけど、
やっぱり、自分で“買いたい!”って思うような
仕上がりになる釉薬をかけないといけませんからね」
それでも、
「なかなか納得できるものができない」と
今のクオリティ以上のものを求める気持ちは、
とても強い安井さん。
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「自分で(頭の中に)思ったのに近いものが、
焼き上がってくるときは、
やっぱり嬉しいですよね」
福森雅武さんが配合した釉薬を
濃度計を使って調節しながら、
一点一点丁寧に塗り、乾かし、焼いていく作業。
「ベア1号」の
光沢のあるうつくしい黒い肌も、
安井さんがいてこそのものなんです。
いつか、一人前の職人に。
──若手たち
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それから土楽には、
見習いをしている若手たちもいます。
彼らは、それぞれの巡り合わせから、
土楽にたどりつきました。
彼らの主な役わりは、
福森雅武さん、道歩さん、
富田さんや安井さん、それから事務所の仕事を
サポートすることです。
土もみ、土鍋のとって付け、
れんげなど、型を基本にするものづくり、
窯詰め、釉薬がけの手伝いなどです。
いつか一人前の職人になれることを
目指して、仕事の終わった夕方からは
ろくろの前に座って、
土を練ったり、器をひいたりします。
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横溝幸司さんは、
京都伝統工芸大学校で陶芸の勉強をしたあと、
2008年の春に土楽に入りました。
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阿久根尚さんは、
元々はまったく違う仕事、
ドラッグストアの店員をしていたそうですが、
「やりがいのある仕事がしたい」と
横溝さんと同じく、
京都伝統工芸大学校で陶芸の勉強をして、
2009年春に土楽にきました。
「土楽は、自然体で働けるし、
ぜんぶ手でつくっているので、
とても勉強になります。
自分も早く、中村さんのように、
鍋をひけるようになれるように
練習しています」
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日名子恵さんは、
科学者の研究所で助手をしていたこともある
ユニークな経歴の持ち主で、
瀬戸の窯業訓練校を卒業したあと、
2009年の春から土楽にやってきました。
はじめて来たのは、
「ほぼ日」でも紹介した野焼きのときだそうです。
阿久根さんとは、同期ということになりますね。
若手で見習いとは言え、
彼らは、みんな、
素直さやまっすぐさを持っているようです。
そして、何より、
ものづくりが好きで
土楽が好きな様子でした。
土楽の器が、なによりも好きで。
──事務のみなさん
それから、紹介したいのは、
職人のみなさんだけではありません。
バックヤードで作業をしている人たちも
土楽には欠かせない大切な仲間です。
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安井智恵子さんは、
「土楽」の器の検品と
梱包作業をしています。
「私がしているのは、検品をして
ヒビが入っているような
“B品”をはじいていくことと、
商品を梱包していくことですね。
お客さんに届ける手前の仕事を
させてもらっているんですよ」
寡黙な職人たちとは違って、
ハキハキと話す安井智恵子さん。
陶器に対する愛情は、
職人にも負けないほど強いみたいです。
「私は『土楽』の焼き物が、
どこの焼き物より好きなんです。
だから、こうして
『土楽』の陶器をチェックして、
梱包できる仕事にたずさわれるのは、
本当に幸せなことだと思っています。」
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そして、
もうひとりが杉原悦子さん。
「土楽」の経理を担当しています。
福森雅武さんと顔なじみだったご主人を介して、
土楽に入ったそうです。
在庫の管理や売り上げなど、
重要な数字まわりは、
彼女がパソコンと向き合って管理をしています。
福森雅武さん、道歩さんたら福森家が中心となりつつも、
「土楽」は、チームとして一丸となって働くことで、
さまざまなすぐれた器を生み出しています。
「うちの土鍋シリーズ」も、もちろん同じです。
どうぞ、これからも、よろしくおねがいいたします。
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それにしても、みなさん、いい顔です!
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