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糸井 |
僕はタカモリさんのことを
本で知ったんですけど、
妙に魅力を感じて、
現物を見るチャンスがないままに、
いつか、いろいろ見せてもらいたいな、
と思っていました。
そうしたら案外とんとん拍子に
会うことができたんです。
知り合いにタカモリさんのお弟子さんがいて、
紹介していただいて。 |
大橋 |
それはいつ頃ぐらいですか。 |
糸井 |
1999年か、2000年か、
その頃ですね。
で、作品を見せていただくうちに、
自分が作るというよりは、
「ああ、この人がもっている
世界というのはおもしろいな」と思ったんです。
イラストレーションを毛糸でやってるんだ、
と思ったんですよ。
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大橋 |
うんうん。 |
糸井 |
作品を知れば知るほど、
物語を毛糸で表現しているんだなと。
大橋さんがクレヨンとかで
描いているのと同じような気持ちで
毛糸で描いているんだと思うんですよね。
ファミコンのドットで表現したい人もいるし、
いろんな人がいるけれど、
この人の根っこは、絵の表現みたいなものを
クレヨンじゃなくてこの毛糸でしているんだと。
大橋さんがクレヨンの絵を額に入れて、
展覧会をして販売しますよっていったら
それは作品として見てもらえるでしょう。 |
大橋 |
そうです。
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糸井 |
でも、これは「お仕事」ではあるけれど、
一体一体の作品としては
見てもらえていなかったんですよ。
くやしいでしょう、ちょっと。
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大橋 |
それはちょっとね、かわいそう。 |
糸井 |
で、今回、ちゃんと
作家として認められるような展覧会場を
ウェブ上に作って、
目の確かな人がお買い求めくださった、
っていうことをちゃんと見せたいんです。
リトグラフみたいなつもりで。 |
大橋 |
だって1個だものね、
オリジナルだもん。 |
糸井 |
そうです。ひとつつくるのに、
いちばん簡単なもので
3日かかるんですよ。
なかには1週間以上かかるものも
あるようですね。 |
大橋 |
本当ですか。 |
糸井 |
‥‥もちろん、
時間がかかるとかかからないとか、
問題はそういうことじゃないんですが、
ちゃんと値段をつけて、
「その値段でいいと思う」
って、そんな目でみんなが
1個ずつを見てくれたらいいと思うんです。 |
大橋 |
そうですね。 |
糸井 |
大橋さんの事務所に伺うと
石の彫刻だったり、
木材を使ったコラージュだったり
若手の作家の作品を買われて
飾ってらっしゃいますよね。 |
大橋 |
ええ、ときどき買っています。 |
糸井 |
そういう作品を、
大橋さんはどんな気持ちで
買ってらっしゃるんでしょう。 |
大橋 |
わたしは、
いくつか理由があって買っているんです。
ひとつめは、いちばん最初の出会いで
買ってしまうっていうこと。
今ここで買わなかったら買えないなっていうような、
そのときのインスピレーションみたいなものですね。
ただ単に、見た途端に感覚的に
なんとなく、わたしはこれはもうすごく好き、
と思うときは、そういう買い方ですね。
あとはもう一つ、
若い子でいい作品を作っていて
買ってあげるともっと伸びるな、
っていうようなところで買うこともあるんですね。
売れてすごくよかったなと
思ってもらえると思いますし、
そういう人って伸びていくし、
結構わりとそういう人のを買っています。
以前、油絵なんですけど、
画廊で見つけて、タイトルがすごく好きで、
それで買おうと思ったんですよ。
それは『空』っていう絵だったんですね。
ただ単に白く塗ってあるところに
緑の線がサーっと入っているだけで
『空』だったんですよ。
わたしの今の南平台の事務所には
窓のない部屋があって。
そこに『空』っていう絵が
飾ってあったらいいかなとか思って
買おうと思ったんですね。
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で、それは小さくて
結構手ごろの値段で、
その画廊の人と話をしているうちに
展示してある作品のなかで
いちばん安いということがわかったんですよ。
そしたらそれを欲しいということが
言えなくなってきちゃったんですね。
もうちょっと高いのじゃないと
悪いかもしれないって(笑)、
『緑の部屋』っていうのを買ったんですよ。
でもやっぱりわたしはどっかで
『空』のほうが嬉しかったので、
『緑の部屋』はうちの息子たちの部屋に
行っちゃったんですけども。
ときどき、そういうアートの
買い方をしてしまうんですけど、
やっぱりいちばん最初の出会い、
これもいちばん最初の第一印象で、
考えずにワッと買っちゃった。
わたしの買い方では、心‥‥、
何ていうのかしら、
アートってわりとそういうふうに決断するほうが
後で後悔せずに素直に大事にできますね。 |
糸井 |
大橋さんは、若い頃から
アートを買いたいと
思っていらっしゃったんですか。 |
大橋 |
ええ、そうなんですけれどね、
こんなこともありました。
ウォーホルのマリリン・モンローの版画、
ありますよね、シルクスクリーンのね。
何点か色を変えてあって、
東京の画廊だったんですけど、
当時、1枚5万円だったんですよ。
今では信じられないんですけど。
で、わたしは「欲しい」って、
夫に言ったんですね。そしたら夫は
「お前、絵をやっているのに
人の絵買ってどうするの」
ってひと言言ったんですよ。 |
糸井 |
(笑)。
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大橋 |
わたしも「そう……」と思って
引いちゃったんです。
その後瞽女の絵を描いている斉藤真一さんが
最初に銀座の画廊で
展覧会をされたときに、
わたしにも買える値段だったから
買いたいと思ったのです。
会場に、瞽女の三味線の音が
わんわん鳴っていたこともあったからか、
スーッと買う気になって。
そしたらやっぱり夫が
また、それを言って。
結局買いませんでした。
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糸井 |
「お前、絵をやっているのに
人の絵買ってどうするの」(笑)。 |
大橋 |
「そうか、そうだね」って。
「そういうふうに
わたしが収集しちゃいけないんだ」
と思ったんです。
でも後からすごく夫に怒りまして。
「買っておけばよかったじゃない」。
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一同 |
(笑)。 |
大橋 |
買っていればすごく値段がついたよとか
ちょっと余分なことですけど(笑)、
そんなふうに怒って。
そんなことで昔、
若いときに買わないで、
後悔したものもあります。
けれどもそれはわたしにきっと
縁がなかったんだろうと思います。
逆にわたしのものを買ってくださる人っていうのは
すごく嬉しいんです。
考えて考えてもういっぺん来ますって言って、
それで買いに来てくださる人っていうのも
すごく嬉しいし、
来てパッて買っていく人もいるし。
やっぱりあれは出会いだなと思うんです。
だからきっと、
この子(タカモリさんのテディ・ベア)と
出会ったこともそうだけれど、
たぶん他の方で、もう出会って、
絶対これじゃなきゃっていうような、
ちょっと説明は難しい、何か‥‥。 |
糸井 |
おっしゃる通りで、
買わなかったものって
やっぱり何か縁がなかったんだ、
っていうことなんでしょうね。 |
大橋 |
そうだと思います。 |
糸井 |
ご主人がおっしゃったことでも、
本当に縁があったら
振りほどいて買いますもんね。 |
大橋 |
買います。 |
糸井 |
だから、自分の心の中に
「そうだ」って思ったっていう。 |
大橋 |
そうです。思ったところが。
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(次回につづきます!)
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