【28】藤森照信さんの本に登場! 
 
   
藤森照信さんのことはご存じですよね? 
建築の歴史を専門とする大学教授として 
数々の建築本を執筆すると同時に、 
「高過庵」や「ねむの木こども美術館どんぐり」 
といったユニークな建物を設計する建築家としても 
活躍する才人です。 
その藤森さんの著書が、この夏にまた出ました。 
『藤森照信 21世紀建築魂 
 〜はじまりを予兆する、6の対話』 
(発行:INAX出版、定価:2100円+税) 
というタイトルで、藤森さんが注目する若手建築家 
6組との対談が収録されています。 
その対談相手の一人として、岡さんが登場しています。 
藤森さんが、新しい建築を切り開いていく 
建築家の一人として岡さんを指名し、 
対談が実現したのです。 
岡さん以外の対談相手は、 
建築界で既に評価を得た建築家ばかり。 
そこに自分を含めてくれたことを、岡さんは 
「こんなに光栄なことはない」と喜んでいます。 
  
▲藤森照信さんの新刊を持つ岡さん 
この本には、有名な建築写真家の藤塚光政さんが撮った 
蟻鱒鳶ルの現場写真もたくさん載っています。 
ぜひ手に取って見てください。 
というわけで、ここでは本に収録されなかった 
こぼれ話を拾っておきましょう。 
■「え、もう帰っちゃうの?」 
対談は蟻鱒鳶ルの工事現場で行われました。 
藤森先生を迎える岡さんは、前の日から大興奮でした。 
「『よぉし』という感じ。 
 僕のもっている建築への熱い思いを 
 すべてぶつけてやろうと、 
 ひとりでヒートアップしていました」 
当日、やってきた藤森さんは、まず現場をひとめぐり。 
それからいよいよ対談が始まります。 
とりとめのない雑談から始り、1時間ほど経って、 
ようやく舌慣らしが済んだかなぁ、と岡さんが思うころ、 
藤森さんはさらりとひとこと。 
「じゃあ、帰ろうかな」 
ええっ、一日中ここにいて、 
僕と建築について熱く語り合ってくれるんじゃないの? 
まだ、何にも話し合ってないのに! 
岡さんは焦りましたが、もうしょうがありません。 
岡さんは、その日、ちょっと落ち込みました。 
でもでき上がってきた原稿を読むと、 
藤森さんは聞くべきところは 
しっかりと聞いてくれている。 
「ちゃんとダンドリを考えてくれていたんだな」 
とホッとしたそうです。 
本を読んだ友人からは、 
「ほかの対談者と比べて、岡くんだけオドオドしている。 
 もっと堂々としろ」としかられたそうです。 
岡さんは、確かにそうだなあ、と認める半面、 
しかたないよな、とも思うのでした。 
「だって僕の建築はこの蟻鱒鳶ルが第一作目だし、 
 それすらまだ出来上がっていないんですよ。 
 自信がもてなくても当然でしょう」 
  
▲建物の工事は道路を見下ろす高さまで進んでいる 
■出会いは5年前にさかのぼる 
逆に言えば、何の実績もない岡さんを 
拾い上げた藤森さんがいかにスゴイか、 
ということでもあります。 
実は藤森さんが岡さんを高く評価したのは、 
今回が初めてではありません。 
「SDレビュー」という、 
計画段階の建築案を審査するコンテストが 
毎年、行われているのですが、その2003年度の回に、 
岡さんは蟻鱒鳶ルの計画を出しています。 
300余りの応募作の中から、蟻鱒鳶ルは見事に入選。 
その時の審査員の一人が藤森さんでした。 
しかも藤森さんは、岡さんの案を 
個人的にも高く評価して、 
独自の〈藤森賞〉を授けています。 
「これは凄いやつ出てきたと思った」 
と、当時のことをこの本の中で振り返っています。 
それから5年が過ぎましたが、 
藤森さんは蟻鱒鳶ルのことを忘れはしませんでした。 
そして実際に工事を見に来てくれて、 
大絶賛とまではいかなかったけれど 
(だってまだ完成までほど遠いですから)、 
「この現場を見れば大丈夫」と言ってくれたのでした。 
当代きっての建築史家からも、 
注目を浴びる岡さんなのでありました。 
  
▲2階へと上がる階段もできつつある
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