【26】子どもたちがやってきた。 
 
   
ごぶさたしてしまってすいません。 
蟻鱒鳶ルの工事は、着実に進んでおります。 
これまでのレポートでも触れているとおり、 
この工事現場には、 
日常的にたくさんの人がやってきます。 
工事を手伝いにやってくる岡さんの仲間たち、 
どんな建物が建つのか気になっているご近所さん、 
たまたま前を通りかかって関心をもった人、 
大学で建築を教えている専門家のかたがた、 
この家を雑誌やテレビで紹介しようとする 
メディア関係者(僕もそのひとりですが)などなど、 
挙げていけばキリがないほど、 
いろいろな人が訪れています。 
そんななか、岡さんがその訪問を 
一番、楽しみにしているのが、 
東京都小金井市にある回帰船保育所の子どもたちです。 
岡さんの知り合いが保育士をしている関係で 
訪れるようになり、 
半年に一回ほどのペースで来ているそうです。 
  
▲子どもたちが現場に到着「ようこそ!」 
■現場のなかをグルグルと回る 
今回、やってきたのは、6人の子どもたち。 
現場に着くと、子どもたちは自由に動き回っています。 
もちろん、保育士の先生が付いているのですが、 
原則的には子どもたちを好きなように 
遊ばせているようです。 
 
  
▲工事現場のなかを探検する子どもたち 
工事現場ですから、 
歩きやすい通路があるわけではありません。 
高いところに掛けられた板の上を歩くのは、 
大人でも足がすくんだりしますが、 
子どもたちは意外にスイスイと、平気で渡っていきます。 
階段ができてないので、階の移動には脚立を使います。 
大人用の脚立ですから、 
子どもにはどう見ても上りづらそうです。 
これは無理かなと思って見ていると、 
子どもたちは最初のうちこそ恐る恐るという感じですが、 
一度成功してしまえば自信を得たようで、 
あとは何度でも上り下りをしています。 
子どもたちが最も好きなのは、 
コンクリート壁の間を抜けることです。 
大人では通れないような小さな隙間を探しては、 
そこをくぐっていきます。 
その結果、敷地の内を一周する道を発見し、 
グルグルと回っていました。 
まるでフィールドアスレチックにでも来たかのような 
騒ぎです。 
岡さんはニヤニヤしながら、それを見ています。 
「いや、最初は少し怖かったですよ。 
 子どもがケガをしたらどうしよう、と。 
 でも保育士の先生は、 
 たくさんの子どもを預かっているから、 
 『これくらいだったら大丈夫』 
 という見極めができているんですね。 
 『子どもに少しくらいのケガをさせるのも、 
  わたしたちの仕事』とも言ってました」 
  
▲梁の上を渡っても「怖くないよ」 
■子どもが興奮する空間をイメージ 
以前、保育所の子どもたちが来たときには、 
小さな石を拾ってこさせて、 
それをコンクリートのテーブルの一部に 
取り付けたりしました。 
子どもたちは工事の参加者でもあります。 
岡さん自身には、子どもはいません。 
でも子どものことは、 
建物を考えるときに初めから頭のなかにあったそうです。 
「こんな空間をつくったら、 
 子どもは絶対に興奮するだろうなあ、 
 とイメージしていたんですよ。 
 だから、子どもたちがはしゃぎ回っていると、 
 本当にうれしい」 
なるほど、岡さんがニヤけていた理由はそれだったのか。 
一方、子どもたちは岡さんにとって 
手強い相手でもあります。 
女の子が岡さんに質問を浴びせます。 
「ねえ、この家はいつ完成するの?」 
「難しいことを訊くねえ。えーと‥‥」 
「わたしの次の誕生日までにはできてる?」 
「お誕生日はいつなの?」 
「来週」 
「うーん、無理無理」 
岡さん、タジタジでありました。 
 
  
▲子どもたちから質問を受ける岡さん
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