【21】石から石をつくる。 
 
   
前回のレポートから半年が経ってしまいましたが、 
工事は着実に進んでいます。 
現在は地下部分のコンクリート壁をつくっている途中で、 
70cmずつの高さでつくっていく 
岡さん独自のコンクリート打ちが 
3段目までできました。 
あともう一段つくれば地下の工事は終わります。 
  
▲工事中の地下1階の様子 
(クリックすると拡大します) 
 
コンクリートは、セメント、水、細骨材(砂)、 
粗骨材(砂利)を練り混ぜてつくります。 
コンクリートの強さは 
主にセメントに水を混ぜる割合によって決まり、 
一般に水の割合が少ないほど強くなります。 
岡さんはその調合をどうするか、ずっと悩んできました。 
結論として選んだのは、 
日本建築学会で示している方法のうち、 
一番強くなる調合にするということでした。 
コンクリートを潰そうとする力に対して、 
どれぐらい耐えられるかを表すのが 
圧縮強度という指標です。 
通常の建築で使うコンクリートの圧縮強度は 
21N/mm2程度あればいいとされています。 
それに対して、岡さんのつくるコンクリートは 
50N/mm2を超えるとのこと。 
「構造計算上は、そんなに強い 
 コンクリートにする必要はないです。 
 でも僕は半ば素人だから不安があります。 
 たとえ失敗したとしても、 
 通常よりはずっと安心できるような 
 構造にしておきたいんです」 
と岡さんは言います。 
■コンクリートは現場練り 
できあがるコンクリートは異様に粘っこいそうです。 
「ミキサーの中にすぐにくっついてしまうんです。 
 後でかき落とすのも大変」。 
そんな手間がかかるため、普通の建築工事では、 
こういう強いコンクリートは使えません。 
通常、コンクリートを打設する建築工事では、 
工場でつくられた生コン 
(どろどろとした状態のコンクリート)を 
ミキサー車で現場に運び、ポンプを使って送り込みます。 
そのためには、コンクリートを水の多い 
“シャブシャブ”の状態にしておく必要があるのです。 
岡さんは現場でコンクリートを 
少しずつ練ってつくるので、 
水の割合は少なくて済むわけですが、 
つくっているコンクリートは、 
決して特殊なものではありません。 
セメントもホームセンターで買ってくる普通のものだし、 
化学薬品を混ぜることもしません。 
違っているのは、 
とにかく手間をかけているということです。 
かつてはみんなそういうやり方でつくっていました。 
けれども効率を優先して 
作業の手間を省こうとする現代では、 
かつてのようなやり方は例外中の例外になっています。 
  
▲コンクリートを打つための木製型枠が見える 
(クリックすると拡大します) 
 
思い起こされるのは農業のことです。 
農薬を使わないで農作物を育てることは、 
膨大な手間がかかるため、 
今では一部の特殊なものとなっています。 
でも出来上がった作物は、 
味や安全にこだわる人が値段が高くても買っていきます。 
岡さんがやろうとしているのは、農業で言うなら 
無農薬野菜をつくることに似ているかもしれません。 
■原料はすべて石灰石 
「なんだか石をつくっているみたいなんですよね」。 
岡さんがぽつりと洩らします。 
そのわけは、コンクリートが固いから 
というだけではありません。 
前述の通り、コンクリートというものは 
セメントに水、骨材を混ぜてつくります。 
このうちセメントの原料は主に石灰石で、 
これを粉砕して微粒子にした後、 
焼いて水分を飛ばしてつくります。 
骨材には、かつては天然の川砂利や 
川砂を使っていたのですが、 
環境保護の観点からそれができなくなり、 
現在では石を砕いて 
人工的につくった砂や砂利を使用しています。 
岡さんが使う骨材は石灰石からつくられています。 
つまりセメントも骨材も石灰石が原料で、 
ほかは混じっていません。 
これらに水を混ぜ合わせて、 
岡さんは固いかたまりをつくっているのです。 
これは、もともと石だったものを、 
再び石に戻してあげているのではないか。 
岡さんはそんなふうに考えたわけです。 
■目指すは世界遺産! 
岡さんがつくるコンクリートは 
とにかく頑丈なものになることは間違いありません。 
そしてそれは劣化しにくいという性質ももっています。 
世の中のコンクリート建築は、 
中性化という現象により次第に傷んでいきます。 
そのため、竣工して35年も経つと 
平気で壊されたりしています。 
でも岡さんがつくろうとしている 
このコンクリート建築なら、 
100年でも200年でももつでしょう。 
想像します。 
100年後、周りの建物がすべて建て替えられ、 
風景ががらりと変わってしまった東京で、 
岡さんのこの家だけが完成時と同じ姿で 
すっくと建っているところを。 
「目指すは世界遺産ですよ」。 
岡さんは豪快に笑います。 
  
▲現場にて岡さん 
(クリックすると拡大します) 
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