【13】「蟻鱒鳶ル」名前の由来。 
                   
                   
「蟻鱒鳶ル」と書いて「アリマストンビル」と読みます。 
岡さんが建設中の家には、 
こういう名前が既に付いています。 
工事現場の前を通る人から必ず聞かれる質問が 
「この名前にはどんな意味があるのか」だそうです。 
というわけで、僕たちもそろそろ、この名前について、 
岡さんに聞いておきましょう。 
 
  
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まず、名前を付けるかどうか、 
そこから岡さんは考えたそうです。 
家に名前が付いているなんて、 
よっぽど有名な建築家が建てた作品でなければ、 
そんなことはないわけで、 
たいていは「○○さんの家」とか、 
少し気張って「○○邸」とか呼ぶ以外にないのが普通です。 
 
そんなときに美術家の島袋道浩さんから聞いた話が、 
頭の中をよぎったのでした。 
それは「名前は重要なんだ」という話です。 
名前を付けることは作品にベクトルを生む。 
ぼんやりとしたビジョンしかないものが、 
はっきりとしてくる。 
岡さんは、自分のやりたいことを明確にするためにも、 
名前をまず付けようと思ったのでした。 
 
■“ハウス”ではなく“ビル” 
 
そこからは難産でした。 
友人のパフォーマンス・アーティスト、 
マイアミさんに名付け親を頼んだのですが、 
決まるまでには1年ぐらいかかっています。 
マイアミさんが最初にもってきた案が「テレテルハウス」。 
岡さんがテレ屋なので付けたそうですが、 
岡さんは即座に却下。 
何がダメだったかというと、 
何よりも“ハウス”がイヤとのこと。 
すごく小さいけど、 
家だけではない様々な要素が入っている建物にしたい。 
だからハウスでもホームでもなく、 
ビルがいいのだそうです。 
最終的にはマイアミさんと岡さんが、 
二人で話し合いながら決めることなりました。 
そのときの様子を再現します。 
 
「“ありません”じゃなくて 
 “あります”がいいよな。肯定的で」 
「トンビは鳶職で、僕らの仕事にも関係しているね」 
「それに“ル”を付けてビルにしよう」 
「アリマストンビル。ヒルトンとかシェラトンとか、 
 トンが付くのは繁盛しているホテルみたいでいいかも」 
「“蟻”、“鱒”、“鳶”と漢字を当てようか」 
「おお、陸海空と揃ったね」 
「どれも割と冴えない動物だけど、 
 そこが逆に俺たちらしくていい」 
「家でなくて“巣”っていう感じも出てくるね」 
「実際、この建物には蟻も住むかもしれないしな」 
‥‥などという話し合いの結果、 
「蟻鱒鳶ル」に決定、とあいなったのでした。 
 
■陸海空、揃っているところがイイ 
 
ところで、岡さんが子どもの頃から 
取り付かれているのが、バベルの塔のイメージです。 
それを頭の中に思いうかべて、 
自分で石をドーム状に積んだりして遊んだりしたそうです。 
バベルの塔といえば、 
僕ら世代が思い出すのはアニメの「バビル2世」(*)。 
物語はバビルの塔に住んでいる超能力少年が主人公で、 
それを助ける3つのしもべが登場します。 
陸上で活躍する黒豹姿のロデム、 
水中で戦うポセイドン、 
空を飛ぶロプロスです。 
 
「陸海空と揃っているところが、 
 蟻、鱒、鳶と同じですね。 
 そう考えると、つまり今、 
 僕がつくろうとしているのはバベルの塔なんだ!」 
 
名前を付けると、 
いろいろそこに符合することが出てきます。 
それを楽しんでいる岡さんなのでした。 
*バビル2世:横山光輝作の漫画。 
 それをもとにしたアニメもつくられた(1973年)。 
 
  
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写真=丸井隆人 |