【11】雨に降られても大丈夫。 
                   
                   
久しぶりに現場を尋ねると、 
雰囲気ががらりと変わっていました。 
現場と道路の間にある柵が 
青、黄、緑のペンキで塗られ、 
「アリマストンビル現場」 
「安全第一」 
と掲げてあるのです。 
すっかり華やかになった感じがします。 
 
  
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「子どもっぽく見えたらイヤだなと思ったんだけど、 
 手伝いに来たOくんが、 
 どうしても塗らせてくれというので‥‥」 
 
と岡さんは消極的だった様子。 
でも、結果的にはよかったようです。 
 
「子どもを連れたお母さんから 
 『あら明るくなったじゃない』と言われました。 
 現場の前を通る人には好評のようです」 
 
そのほかにも、現場にいると 
いろいろな人が前を通っていきます。 
たとえば日常的に現場の前を歩いていく 
リハビリ中のお年寄りが3人います。 
そのうち2人は以前から 
にこやかに挨拶を交わしていましたが、 
ひとりのおばあさんだけは 
いつもむすっと黙ったままでした。 
それが最近、 
「がんばっていらっしゃいますね」 
と声をかけてきてくれたのです。 
これは岡さんもすごくうれしかったそうです。 
自分の家づくりがまちの人に受け入れられるだろうか、 
岡さんはずいぶんと心配していましたが、 
今のところは、非常によい関係が成り立っているようです。 
 
■梅雨をまたぐな、と言われたが‥‥。 
 
さて、工事の進捗状況はというと、 
地下の穴掘りが終わって、 
これからコンクリートを打とうかという段階です。 
実は当初の予定では6月の梅雨の前には 
地下のコンクリートは打ち終わっているはずでした。 
それは雨がたくさん降ると、 
せっかく掘った穴が崩れてくるおそれがあるからです。 
土木工事の専門家も、 
「穴を掘ってからコンクリートを打つまで、 
 梅雨の時期をまたがないようにするべし」 
とアドバイスしてくれていました。 
それが穴を掘るまでに手間どり、 
堀り終わるころにはもう6月という進行状況でした。 
あわてて進めるのもよくないな、と判断した岡さんは、 
コンクリートをすぐに打つことをあきらめ、 
まず土の壁が崩れないようにするにはどうしたらいいか、 
を考えることにしました。 
最初は埋め戻した土を、 
築地塀(*)をつくるときのように、 
たたいて固くするという方法を試したそうです。 
 
 *築地塀(ついじべい): 
  土を厚く積んで上に瓦を載せた塀のこと。 
  
でもこれはほんのちょっと工事するのに 
半日以上かかってしまい、 
とうてい全部はやりきれないことがわかりました。 
途方にくれていたころ、ヒントをくれたのは 
コンクリートの調合設計をしているXさんでした。 
 
「土は掘る前が一番強いんですよ」 
 
なるほど、そうか。掘った直後の土はまだ強い。 
乾燥して、そこに雨が入るとボロっといく。 
それがわかった岡さんは、 
余分に掘って埋め戻すのではなく、 
土をまっすぐ掘ることにし、 
その土の面が乾燥して雨に打たれることがないように、 
ラス網というネット状のものをかぶせて、 
そのうえにモルタルを塗ったのです。 
これはみんなに手伝いながらやってもらった 
簡単な作業でしたが、効果は抜群で、 
これで土の壁はガッチリともつようになりました。 
雨に降られても大丈夫です。 
 
  
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■今はコンクリート工事の準備中 
 
梅雨の時期が過ぎて、季節はとっくに秋ですが、 
コンクリートを打つ工事はまだ始まっていません。 
まだまだ準備や 
検討しなければならないことがあるそうです。 
 
「鉄筋を調達しなければいけないし、 
 型枠の材料も決めなくてはならないし‥‥」 
 
そのほか、コンクリートを打つためには 
工事現場に水道を引く必要もありますし、 
砂や砂利を購入して現場に搬入するという作業もあります。 
ミキサーの機械を狭い現場にどう入れるかも 
悩ましいところです。 
そうしたモロモロをクリアして、 
工事はようやく次の段階に進むというわけです。 
 
もうひとつ、夏の間、 
工事があまり進んでいなかったのには理由があります。 
岡さんは7月の終わりから8月の半ばにかけて、 
岐阜県の山奥で行われる 
建築のワークショップに出かけていたのでした。 
高山建築学校というそのワークショップは、 
岡さんが建築について大きな影響を受けた場です。 
ですので次回は、 
高山建築学校について簡単に触れておこうと思います。 
 
  
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写真=丸井隆人 |