アメリカのレストランは家をなぞって出来上がる。
暖炉の香り‥‥、つまり
「鼻から感じるアペタイザー」を思う存分味わって、
そしておもむろに名前を呼ばれて
ダイニングルームにいざなわれます。
もっとおいしい香りを嗅いでいたいのに‥‥。
あぁ、勿体無いと思いながら、
鼻が途端にさみしくなります。
さみしくなると同時に、一生懸命、香りを探す。
食事がどんどんたのしくなってくる仕掛けです。
料理が直接発する香りでないもので、
料理に思いを馳せるというコト。
香りをたよりにイマジネーションをふくらませ、
料理をおいしく味わうココロの準備をするコト。
日本の人がまず「目で見て」味わうように
彼らは「鼻」で味わう。
それも食卓につくずっと前から、
料理がやってくるまでをずっと鼻で味わっている。
「セイヴォリー」をたのしむという、
アメリカ的なる料理の楽しみ方は、
こうしてたしかにはじまるのです。
それにしてもアメリカのレストランの
ダイニングルームには、さまざまな香りが渦巻いている。
料理のひとつひとつが強烈な匂いを発して、
隣の席までなだれ込んでくる。
日本の料理の香りのテリトリーは、とても狭くて、
ときに同じテーブルを囲む人たちにすら届かぬほど。
そんな香りの上では控えめな料理と違って、
厨房の中から運ばれる通路に、
匂いのパレードが繰り広げられるほどに香りが強くて、
幾つもの香りが混じって新たな匂いを作り出す。
私達と外界をつないでいるさまざまな情報の中でも
「香り」というのは極めて特別。
目なら閉じれば見なくてすむ。
耳ならふさげば聞かなくてすむ。
けれど匂いに関しては、
生きてる限り空気を吸わなきゃいけないわけで、
否応なしに体の中にはいってくる。
嫌な匂いも嗅がなくちゃいけないわけで、
ときに暴力的な香りに悩まされることもある。
香水。
あるいはタバコの匂い。
どうにもこうにも好きになれない
香辛料の香りであったり。
渦巻く香りに負けてしまうと、
快適な食事をたのしむコトが
できなくなってしまったりする。
さぁ、どうしよう。
レストランで香りを制するたのしい工夫。
さて、来週といたしましょう。
|