日本独特の食事の作法のひとつに
「食器を持ち上げて食べる」というものがありますよね。
手で器を持ち上げる。
これも立派な先味です。
手に伝わってくる温かさ、あるいは冷たさ。
重さに、器のてざわり、なめらかさ。
当然、手に取り器を持ち上げるコトで、
料理と目との距離は近づき、
そのうつくしさを目で味わうのに好都合。
しかもおだやかな日本の料理の香りがゆっくり、
鼻に近づいてくるのにワクワクします。
おじぃちゃんのお店には、
汁を入れて提供するための器が全部で3つあった。
2つは塗りの木のお椀。
ひとつは陶器の丼で、お椀の違いはその厚み。
木のお椀のひとつは薄くて
驚くほどに軽くて蓋がついていた。
もうひとつは手にするところが分厚くできてて、
蓋のついていないもの。
どう使い分けているのと聞いた、答えは明快。
木でできたお椀は熱を伝えにくい。
だからすぐに飲んでもらいたいお汁は木のお椀。
出汁のうま味を堪能していただきたい、
おすましのような汁は薄いお椀で蓋をして出す。
蓋をとろうと手にしたお椀が、ほんのり温かく感じれば、
それをすぐに飲みたくなるもの。
日本料理店の命でもある、
出汁の繊細な風味の真価を純真無垢な舌で味わい、
評価してもらうためにと言う工夫。
具材をタップリ使った豚汁や三平汁のような汁。
熱々であることがおいしいこれらの汁は、
フウフウしながら食べるとおいしい。
だから分厚い木の椀で、蓋せずそのまま。
湯気が大量にお椀の上に漂っている、
それを見ればスゴく熱いことが一目瞭然。
けれど手にしてほんのり温か。
安心をしてすぐにどうぞ、
召し上がれというメッセージにもなるのですね。
料理の内容によっては、
汁をなるべく後に飲んでほしいようなコトがある。
そんなときには熱々にした汁を陶器の器にいれる。
飲もうと手にすると熱くて持てない。
まだ飲まないでというメッセージを
器の温度が出してくれて、だから結果、後回し。
中の汁が冷めてほどよき温度になる、
その頃合いでやっと手に取り、コクリとひと口。
おじぃちゃんくらいになったらな、
このお客さんは早食いだろうから、
ちょっと早めに食べごろになるよう
温度を加減しようか‥‥、
なんてコトが自由自在にできるんだって、
自慢をしていた。
器を手に取る日本料理ならではの、
こうしたもてなしもあるのですね。
つまり左様に日本の料理の先味は、
ほぼ「目と手」で味わうようにできてる。
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