手紙168 医療制度のしくみ・5 カナダの場合
こんにちは。
医療保険制度についての話の続きです。
原則として、政府が医療費のすべてを負担している
カナダと英国では、
患者さんは、病院を受診するときに
お金を払う必要はありません。
カナダを例にとって
その実像をもう少し具体的にご説明することにします。
カナダに住んでいる人は
年に5.4回病院を受診する、という統計があります。
米国の場合、平均年3.2回程度の受診です。
両国の国民の健康状態に大きな違いはないでしょうから
米国に比べれば、カナダでは病院の敷居は低め、と
いえるかもしれません。
もちろん、受診回数に応じて医療費も上がっていくので、
現在、カナダは
世界で2番目に医療費を使っている国になっています。
この高騰し続ける医療費を抑えるために、
カナダでは日本や米国にはないシステムをとっています。
まず、第一に
かかりつけの医師の診察を受けて紹介されなければ、
循環器科(心臓の病気)や消化器科(胃腸や肝臓の病気)、
整形外科(骨や筋肉の病気やけが)、耳鼻科などの
専門医の診察を受けることはできません。
専門医の数は、
一般内科医と呼ばれるかかりつけの医師の数よりも
うんと少ないので、
紹介された患者さんは
自分の順番が来るまで待たなければなりません。
一般内科医から紹介された患者さんが
専門医の診察を受けるまでの期間は、
日本ではちょっと想像できないくらいの長さです。
たとえば、これは2000年の統計ですが、
一番早いのが、腫瘍(がん)の専門医で、5週間。
緊急性のない外科であれば、9週間。
これが整形外科だと26週間。
眼科であれば、28週間。
もちろん、命に関わるような緊急性のある場合には
救急センターを通して
早めに治療を受けることはできますが、
それはどちらかといえば例外的なものです。
ですから、米国に近い地域に住んでいて
経済的に余裕のあるカナダ人の中には、
米国の民間の保険会社と契約をして、
病気の際には
米国内の病院ですぐに治療を受けている人も
少なくありません。
たとえば、カナダのケベック州の知事が
10年ほど前に癌の診断を受けた際に、
自国内ではなく
米国の癌の専門病院で治療を受けた、というのは
有名な話です。
二番目には、外来を受診する患者さんの数の
抑制策が設けられていることが挙げられます。
それぞれの外来医療施設には、
毎年受診患者さんの上限が定められています。
これはどういうことかというと、
たとえば、ある外来医療施設で
そこの年間受診患者さんの上限を
3000人、と決められると、
受診した患者さんののべ人数が3000人になるまでは
国からの医療費は全額支払われますが、
それを越えると、かかった医療費の半額しか
医療施設には支払われなくなります。
もちろん、外来医療施設側にとっては
確実な損になりますから、
その年の上限の患者さんを診てしまったところには
その年度が終わるまで「臨時休業」する場合もあります。
気軽にかかりつけの医師にかかることができて、
自己負担がない、という観点からは
カナダの医療保険制度はすばらしいのですが、
それを支える高い税金と
専門治療までの道のりの長さ、
そして、外来医療施設に設けられた
「受診患者さんの人数の上限」は、
その裏側にある問題です。
では、今日はこの辺で。
次回は
米国の医療保険制度についてご紹介しようと思います。
みなさま、どうぞお元気で。
本田美和子
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