「映画じゃなくてゲームならではのおもしろさを
出したい」と、発言していることについて。
あんまり「これは映画じゃない」って言ったら、
映画のつもりでつくっているひとに誤解を与えるよね、
それは避けたい。
自分も花札屋、トランプ屋としての任天堂に
元といえば就職しているわけで。
そのなかで、わけのわからないもの、今までなかったものを
つくるのがおもしろかったわけですからね。
ゲームをつくるなかで、映画のような演出は、
「便利やな」と思います。
ユーザーに対してもおもしろいし、便利だと思いだした。
映画とゲームって、作る体制は似ているけど、
はっきりいって表現のレベルは全然違うし、
まともに戦ったら勝てません。
前にすぎやまこういちさんが
「まだゲームは音楽をパロディとしてしか使っていない」
っていってたけど、そのとおりやなと思いますね。
ゲームのなかの映像表現は、映画のパロディのようにしか
あつかえてないのかもしれない。
ですから我々は、映画のようで映画でない、
ゲームのようでゲームでないもんを、
誰もやったことのない土俵で、作っているつもりなんです。
「64」のソフトをつくるには、
表現力のあるひとが要求されるわけで、
映画のような演出を一部とりいれてはいるけど、
つくる思想として、みんなのなかには
「映画と戦える新しいメディアを作ろう」という
思いが浸透していますね。
ゲームがだんだん映画に近づいてきたわけやけど、
これからもっともっとムービーに寄っていくのか、
アトラクションに寄っていくのか、ね。
今回の「ゼルダ」にかかわったひとは50人以上になります。
ただ、このチームを
映画スタジオのようにするのはいやだったですね。
「マリオ」の宮本と「ゼルダ」の宮本は、
どこかちがうんだろうか?
マリオとゼルダ、自分としては全く同じですね。
戦闘があるかどうか、
成長という要素が入っているかどうかの
違いだけですね。
最初は「ハイラル城」だけがあったんです。
あまりあちこち動き回らないで、
小さな空間のゲームにしようかな、と思っていたんですが、
そのアイディアは「マリオ」でほとんど使ってしまった(笑)。
主観ゲームといってますが、
館のなかに入り込んでいくことが怖いという気持ちにさせる
「怖いゲーム」だったんです。
でも、まずリンクが出来て、
リンクをフルに見ているうちに様変わりしていった。
じゃ、「マリオ」との差別化はどこに?
というのがテーマになりました。
「マリオ」は熱い、冷たい、という
さっぱりとしたシズル感のあるゲームで、
それに対してゼルダはもうすこし「かび臭い」、みたいな
「におい」がからむような質感が出るゲームにしたいというので、
表現技法も研究しましたね。
今は、このシステムで来年早々にも
もう一本新しいゲームをつくってもいいかな、
一本じゃもったいないぞというところまで練り込みました。
そやから、ゲームの完成度としては
「もっともっとやれる」という思いです。
僕自身にとってのゼルダとしては、
ストーリーは書かないっていうのがあって、
それは興味がなくて、っていうか、才能がなくて。
それよりも「どんなひとが出てくるか」に興味があるんです。
こんなひとがいるから、そのひとに何をさせるか、ということに。
だから、8つの謎解きが楽しめる、
それぞれのダンジョンにそれぞれのボスがいる、と。
じゃ、それは守ろう、と。
そして「オカリナをつかう」
「馬をつかう」というようにきめていって、
例え魔物であってもどこかに弱い部分をもっているとか、
乗り物であっても、
ひととふれあう部分のある「馬」に乗せる、とか。
最高速の出る「アポロのブーツ」でもいいんやけど、
平原を馬で走るほうが、やってて気持ちいいですよね。
オカリナにしても、楽器を自由に吹く、
演奏ができる、っていうところまでいってから、
それを、ゲームというまとまりに収めることが
仕事になっていったですね。
そやから、欠けてる部分を足したり、
傾いているものを直したりするのがぼくの仕事でした。
クロサワのように、全スケッチを自分で描いて
スタッフに配ったりしているわけじゃない。
「マリオ64」では、久しぶりに「ディレクター」をやったけど
今回の「ゼルダ」では、仕様書は書かずに
プロデュースをやるだけのつもりが、
自分のわがままで作業が遅れたんで、
途中から仕様書を1/4くらい書く羽目になりましたけど。
というところで、「(1−1)宮本茂まず語りはじめる」は終り。
これから、加速度つけて進んでいきますから、
新しい更新をこまめにチェックしてください。
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