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 |
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「明日の神話」は愛媛の、
のどかできれいな場所にある工場で
ていねいに修復され、
再生の道を力強く歩んでいます。 |
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修復には1年以上かかり、最終的な絵の設置場所は、
まだ決まっていません。 |
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「明日の神話」は、レリーフのように
厚塗りされた部分があります。 |
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「太陽の塔」を思わせる、すごい迫力です。 |
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みなさん、ほぼにちわ。「ほぼ日」菅野です。
これまで「なんだ、これは!」のページで
お伝えしてきた
岡本太郎さんの壁画「明日の神話」を
「ほぼ日」で公開できる日が
とうとうやってまいりました!
メキシコで行方不明になっていた35年のあいだに
そうとうなダメージを受けた「明日の神話」は、
現在、愛媛県は松山で修復作業が行なわれています。
その修復現場で記者会見が開かれることになり、
思い切って、行ってきました。
個人的には、四国初上陸です。
8月某日、7:25発羽田ANA583便に、
カメラを抱えて乗り込みました。
飛行時間は1時間20分。
いつもより朝が早く、眠いのですが、
機内では一睡もできません。
壁画の存在を知って2年間、ずっと見てみたかった、
岡本敏子さんが心待ちにしていた「明日の神話」に、
近づこうとしているのですから!!
本気でドキドキです。
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8:45、松山空港に到着しました。
空港からはリムジンバスに乗って
松山市駅に向かいます。
松山駅とまちがえないでくださいね、と、
空港のバス係のお兄さんが声をかけてくださいます。
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このバスに乗って、駅まで25分かかります。
ここは四国。
東京とくらべて、心なしか
日ざしがギラギラしたかんじです。
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松山は、路面電車が走っていたり
お城の跡があったりする、情緒ある町です。
松山市駅に到着しました。
2両編成の電車に乗り、
「明日の神話」修復工場、サカワのある
横河原駅という終着駅まで、30分あまりです。
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伊予鉄横河原線という路線です。
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線路は途中から単線に。
地元のみなさんでにぎわっていた車内は、
時間の半端さも手伝って、
3駅目あたりから、早くも
自分を含めて乗客がふたりに。
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たいへんのどかです。
頼みの綱の、もうひとりの乗客が、
終着駅のふたつ手前で下車。
まったく意味なく不安になりつつ、
横河原駅に到着です。
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ひじょうに趣のある駅舎です。
「明日の神話」は株式会社サカワの工場の一角で
修復が行なわれています。
横河原駅改札を一歩出れば、
ここからは地図がたよりです。
●と線がグラフのようになっているこの地図の、
いったいどこに、どの方角を向いて立っているのか
はっきり言って、さっぱりわかりません。
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この地図一枚しか、持っていませんでした。
ここで、経理の長坂さんが
「困ったときはタクシーに乗ってください」
と、仮払金を渡してくれていたことを思い出しました。
いまこそ、その力を発揮するときです。
ヘーイ、タクシー!
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ヘーイ、タクシー!
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ヘーイ、タクシー!!
しかたない、歩きましょう。
どっちに?
どっちでしょう。
自転車で通りかかったおじいさんを大声で呼び止めます。
「おう!」
サカワという工場に行きたいのですけれども。
「あの角を曲がっての!」
はい!
「信号があるけぇ、その道じゃ!!!」
はい!!
とても男らしい愛媛の言葉に、
一部始終の写真を撮ること等々を忘れてしまい、
取り憑かれたように教わった道を歩きます。
暑いです。
めっちゃ暑いです。
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雲ひとつない午前11時。気温は何度?
さきほどから、オレンジ色のチョウチョが飛んでいます。
暑さによる幻覚かもしれません。
ああ、岡本敏子さんかな。
敏子さんが、案内してくれているのかな。
チョウチョについて歩くと、川の向こうに、
「サカワ」と書かれた建物を発見!!
やった。着きました。
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あそこに、「明日の神話」があるのです。
修復現場では、敏子さんの跡を継いで
岡本太郎記念館館長になられた
平野暁臣さんが待ってくださっていました。
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よく来たねー!
縦5.5メートル、横30メートル、
プールのような大きさの「明日の神話」は
修復のため、
透明なガラス板の上に裏返しに設置されています。
これが、いま現在の「明日の神話」です。
ジャジャーーーン。
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巨大なパズルのようです。
壁画は、もともと入っていた割れに沿って解体され、
メキシコから日本に運ばれてきました。
現在は、バラバラになった壁画の
大きなピース、小さなかけらを
ひとつひとつ検証しながら接合しているそうです。
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慎重にていねいに、修復が行なわれています。
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小さなかけらまで、きちんと番号が振られています。
まるで考古学の現場のようです。
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ガラスの下からは、絵のおもて側が見えます。
「ガラスの上に乗って、どんどん撮影してください」
と、平野さん。
「ガラスはツルツル滑るから、
落ちないように気をつけてね」
はい。
靴を脱いではしごをのぼり、
透明ガラス板に乗って
注意深く「明日の神話」を激写です。
余談ですが、ここで告白いたしますと、
わたくし、膝丈のスカートを着用しています。
下にいらっしゃるみなさまに、
何と申し上げていいのかわかりませんが、
もはやそんなことは気にしません。
きっと、敏子さんも気にしないはずです。
一心不乱にシャッターを切っていると、
「今日は一部分だけですが、
絵のおもて側を撮影していただけますよ」
と、平野さんが声をかけてくださいました。
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「明日の神話」中心部分を公開です。
カメラを構えながら、心が震えます。
みなさん、ガイコツの、
白い部分に注目してください。
レリーフのように、盛り上がっているのがわかりますか?
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骨の部分が、5センチほど盛り上がって塗られているんです。
これは、実際に壁画を観るまで、知らなかった事実です。
まるで、ほんものの骨が焼けたように見えます。
すごい迫力です。
「太陽の塔」もそうなのですが、
太郎さんは、時代を超えて、いつもいつも
みんなを驚かせてくれます。
平野さんは、こう教えてくださいました。
「このレリーフのように盛り上がってる部分に、
光があたれば、影ができるんです。
時間の経過によって、いろんな表情が生まれる。
どうです、この絵は、パッと見ただけで、
目の前にせまってくる迫力でしょう。
きっと、描かれた37年前よりも
いま、まさに、この絵が
みんなに見られなくてはならない状況に
なったということかもしれません。
この作品のメッセージが
いまになって、必要になったのでしょうね」
よし、そろそろ見せてやる!と
太郎さんが言っているのかもしれませんね。
修復後の設置場所は、
まだ決まっていないそうですが。
「未来永劫この絵をたいせつにしてくれる場所、
そして、そこにあることをみんなが
一瞬で了解してくれる場所であればいいな、と
思っています」
修復家の吉村絵美留さん率いる
5名のチームが中心となって、
この壁画の修復にあたっておられます。
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絵画修復家の吉村さん。
岡本太郎作品の修復に豊富な実績をもっておられます。
「修復は、絵を描いた太郎さんの気持ちを
なぞるような作業です。
この絵は、暑く乾燥したメキシコで描かれましたから、
塗ってすぐに絵の具が乾いたのでしょう、
筆のタッチが、ほかの太郎さんの作品よりも
強く残っているんですよ。
それから、太郎さんは
この壁画をかなり強い思い入れで描いた
ということも、修復をしていると、
とてもよくわかります。
何度も描き直し、調整した跡が
ほぼ全面に見られますから」
この「明日の神話」が描かれたのは
「太陽の塔」と同時期でした。
この絵は、岡本太郎という芸術家の、
それまでの絵画作品のモチーフや手法、要素が
結晶のようにつめこまれている作品なのだそうです。
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平野さん、修復チームのみなさんといっしょに
昼食にうどんを食べました。
四国のうどんはおいしいです。
壁画のあちこちに、
メキシコで保存されていたときに開けられてしまった
ボルトの穴の跡がいくつもありました。
「早くなんとかしてあげなきゃ、
かわいそう、かわいそう」
と言っていた岡本敏子さんを思い出します。
でも、もう大丈夫です。
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メキシコでは、ボルトで留められて
かろうじて崩れずにすんでいたそうです。
修復が完成するまでは、
少なくとも1年を要します。
また近いうちに、修復のようすを、
みなさんにお伝えしたいと思っています。
それでは、また!
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2005-08-24-WED |
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