なんだよ八っつぁん、おいら仕事中で忙しいんだよ。 
  なんだい?落語つながりの漫画だって? 
  そうするってぇと、次はあれだね、 
  古谷三敏さんの『寄席芸人伝』を 
  忘れてもらっちゃぁ困るよ。
  どっちかってぇと画がほのぼのとしてるから、 
    軽妙な笑い噺にはぴったりなのは合点がいくが、 
    時には浮世の情念までも映し出すあたりは、 
    さすが名人上手と謳われるだけあるねぇ。 
  師匠と弟子、芸人とその女房、芸人同士、 
    演者と観客、寄席とそれを取り巻く人間模様を 
    これだけ描ききった作品は他に知らないねぇ。 
    明治・大正・昭和とそれぞれの世相までもが 
    映し出されている上に、芸人世界の符牒も 
    いろいろ出てくるのも通っぽくていいねぇ。 
  こいつぁ読まなきゃ損だよ。 
    あたしなんかは、何回も読み返しちゃぁ、 
    そのたんびに噺家になりてぇと思って、 
    今からでもどこかの師匠に弟子入りしようかって 
    考えるくれぇだ。 
  おっと、そろそろ仕事に戻らなきゃいけねぇや。 
    油売ってちゃおまんまの食い上げだ。 
    寄席の話なだけに、おあとがよろしいようでってなもんよ。 
  (k)  |