2025-02-24

・いまではもう細かくは憶えていないのだけれど、ぼくは25歳くらいで勤めていた小さな会社がつぶれて、しょうがなくフリーになったものだから、会社というところにおおぜいの人がいるということに憧れのようなものがあった。大きな会社の廊下に「茶道部例会」だとか、「靴特売地下一階」みたいな貼り紙があるのが、うらやましくてしょうがなかった。「社員旅行」がいやだとか「忘年会」がめんどくさいとか、そういうことを言える境遇は幸せだぞと言いたかった。ぼくがフリーで持っているのは、小さな机と、原稿用紙と、シャープペンシルと、録音用のテープレコーダーだけだ。いやいや僻んでいるわけではない、ただただ、「会社」という大勢の仲間がいる仕事場のことが、うん、やっぱりうらやましかったのだ。フリーという小単位の「チーム」は、仲間というか話し相手も、「おれひとり」だからね。

広告の仕事はデザイナーとか、イラストレーターとか、なんなら営業の人たちだとか、外の人といっしょにやることになるので、その「打ち合わせ」ということで、会って話せるのがとてもうれしかった。それ以外のコラムだとか原稿書きみたいな仕事は、これはもうひとりでやるしかなかったけれど、編集の人が相手をしてくれるのはたのしかった。

30歳になるかならないかのころに、いろんな仕事を頼まれることも多くなって、そういうともだちも増えたというあたりで、「スナック」というところに夜に行くようになった。思えば、そこには「フリー」的な仕事の人が集まっていて、時間が自由になりそうなぼくは、毎日そこに行っていた。夜の9時ごろになると、お誘いの電話がかかってきた。年上の人たちがほとんどだったが、生意気なこと言ってもたしなめられることもなく、みんな「この場をおもしろくする」ことだけをやっていた。大人になってからの「青春」みたいなものだったのかなぁ。やや非常識で、思えばエネルギーの要る場だったと思う。ぼくは酒を飲まないのに、そこに連夜午前3時までいた。

今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。いいとかわるいとかじゃなく、そんなだったと思い出した。

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