しみじみとした趣に満ちた言葉の国日本。
そんな国のいとおもしろき言の葉を一つ一つ採取し、
深く味わい尽くしていく。
それがこの項の主な趣向である。
其の九拾七・・・告別
「今年の夏は寒いですねえ。
でもわたくしのような散歩人にとっては、
気持ちよく歩ける絶好の日和が続いております。
おやっ、あそこにいるのは何でございましょうか?」
弟子の北小岩くんがひとりごちながら町を徘徊していると、
道の端を進む奇妙な一団が目に留まった。
「喪服を着ているようですが、まさにあれは・・・」
北小岩くんが瞠目したのも当然である。
おちんちんの集団が喪服姿でどこかへ向かう
ところだったのだ。
一様に沈痛な面持ちだ。
「これは一大事でございます。
小林先生にお伝えしたいところですが、
家まで戻っていたのでは見失ってしまいます。
ここはわたくしが責任を持って、
見届けるしかありません」
一団は路地を奥に入り、
塀に開いた穴をくぐり空き地へと抜けていった。
北小岩くんはゴミのポリ容器を足場に塀を乗り越えた。
空き地の片隅には壊れた土管が置かれており、
その中へ入っていったようだ。
屈み込んで様子を見、思わず息を飲んだ。
「なんと!
今まさに行なわれているのは、
おちんちんの告別式ではありませんか!!」
ここ裏筋が丘の空き地には、
おちんちんの葬祭場があるのだ。
男がひとり亡くなると、
それはおちんちん1本の死を意味する。
他界した如意棒のために、
毎日何件もの葬儀が営まれているのだ。
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会葬
ちんちんA |
「ちんの介さんは絶倫そのものだったけれど、
母屋である旦那が
腹上死してしまったらしいな」 |
会葬
ちんちんB |
「それは心残りだったろうなあ。
先に旦那が昇天してしまうとは・・・。
俺たちゃ旦那が死んでしまうと、
同じ運命をたどらにゃあかんからなあ」 |
読経が始まった。
睾丸を天日干しにしてつくった木魚の悲しげな音が響く。
おちんちんが次々とお焼香をしていく。
故チンの恥垢を乾燥させたものを鼻の前に持っていき、
嗅ぎながら冥福を祈るのだ。
恥垢が焼けると、ほのかに味わい深い香りが漂った。
式が進行し、故チンがおさめられた棺が
祭壇から下ろされた。
会葬者を代表して友人が弔辞を述べた。 |
小ちん
かぶり彦 |
「ちんの介くん、
どうして君はこんなにも早く
天界へと召されてしまったのでしょうか。
君と僕はお互いが
ラッキョウのような形をしていた時からの
友でした。
僕が短小と蔑まれ金蹴りを食らって
うずくまっていた時、
ちんちんは長さではないと叫び、
その大きなカリで
悪いヤツらを追っ払ってくれましたね。
やらずのハタチを迎えた夜、
プロのお姉さんを紹介してくれて、
事に及ぶ前にかぶっていた皮を
むいてくれたのもちんの介くんでした。
無事に初体験を終えると、
お姉さんの愛液に炭酸を混ぜて
シャンパンだといって、
うれしそうに乾杯してくれました。
そんなやさしい君だったのに、
君だったのに・・・」 |
会場のいたるところで嗚咽がもれた。
のぞき見ていた北小岩くんの目からも
熱いものがこぼれている。
葬儀社のスタッフが棺を開けた。
立派な反りをしていた故チンは、
生前の3分の1ほどに縮んでしまっている。
だが、その顔は安らかだった。
棺にはちんの介が天国でも気持ちよく過ごせるよう、
特上のエロ本やオナホール、
パワーハットなどが入れられた。
(※オナホールとパワーハットは
有害物質を出さない材質でできたものでした)
棺のふたが釘で打ちつけられ、
車輪のついた黒塗りのペニスケースにおさめられた。
隣の火葬場に到着すると、
女性器をかたどった炉の前に置かれた。
火葬場職員の「最後のお別れです」という言葉が
ホールに反響する。
亡骸は炉に挿入され点火された。
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「ちっ、ちんの介〜〜〜!!」
友人たちのすすり泣く声がする。
へたり込んでいる者もいる。
その時、小ちんかぶり彦が立ち上がった。
「ちんの介くんは立派に生きました!
みんな、立ち上がって
彼を送り出しましょう!!」
小ちんの呼びかけで、友人たちは屹立した。
そして、涙をぬぐいながら各自が頭を擦りだした。
スタンディング・オベーションならぬ、
スタンディング・マスターベーションだ。
会葬者たちは背筋をピンと伸ばし、
頭の先から白い涙を流して追悼の意を表した。
柱の影では故チンと深い親交があった
まんの丞(マンのじょう)さん他、
20もの女性器たちが粘り気のある涙を流しながら
彼を送った。
感動した北小岩くんは、
自分のイチモツを握り締めると語りかけた。
「これからもあまりいい思いは
させてあげられないと思いますが、
楽しい時も苦しい時も
手を取り合って歩んでまいりましょう」
北小岩くんといっしょに告別式を見ていたジュニアは、
頭の先っぽに涙を浮かべながら何度もうなずいた。 |