欽ちゃん!
萩本欽一さんの、おもしろ魂。

組織の末端を見つめる。


糸井 萩本さんは、いままで、
いろいろなことをしていらっしゃったけど、
当然、まだまだ、長く生きていきますよね。

この先に、何をしたいと
思っていらっしゃいますか?
やっぱり、人を育てたいのですか?
萩本 ですね。
「自分でしたい」は、ないですね。
糸井 でも、してほしいなぁ。
やっぱり、お話を聞いていると、
おもしろいですから。
萩本 どうしてそう思うかと言うと、
自分には、30代のとき、
ぼくのことを受けいれてくれた、
先輩がたが、いるわけですよね。

プロデューサーだとか、テレビ局の。
年上なのに、
「おまえがそうしたいの?
 だったら……ま、いいや」
と、やってくれた人が、何人もいました。

それのおかげで、
ぼくは、テレビがたのしかった。

そうやって、
たのしいことをした自分が、
50歳になって、60歳になっても、
「自分がテレビをやる」
と言ったら、
ぼく自身の30代を、
否定することになるからね。
糸井 あぁ、なるほど。
萩本 だから、自分では、
行きたくないし、言いたくない。

テレビ局に行ったら、若い人には、
「好きなようにやればいいんじゃないの?」
としか、言いませんし。

ただ、自分が30代の頃にやっていた
「たのしい欽ちゃん」
は、どこかにいてほしいなぁと思うの。

自分では、できないんですよ。
だけど、どうしてもひとり、出ないかな? と。

だから、いつもまわりには、
「欽ちゃんに、ならない?
 欽ちゃんを、やらない?」
と、声をかけているだけで。
糸井 思いがけないところで、
きっと、ポンと出てくるんでしょうね。
萩本 そういう人が出てきたら、
自分がたのしくやらせてくれたぶんを、
恩返しできるんです。

自分でいつまでも
テレビをやってることは、
恩返しにならないですから。
糸井 そうですか。
萩本 30代の俺は、ダメなやつだったでしょう。
だけど、
「それをしたいの?」
と言って、やらせてくれた人がいたから、
ぼくは、あるところに、いっちゃったの。

誰かが、
大きい意味で見守ってくれたから、
自由に番組を走り続けてこれたんだ。
糸井 萩本さんの道のりをうかがっていると、
ひとりの気弱な人が、
気弱であるがゆえに、細心の注意を払って、
判断をしつづけてきた、
というふうに聞こえますけど、
「コワイ」という部分は、なかったんですか?

「欽ちゃんってコワイよ……」
そういうところがあったのかどうかについて、
うかがいたいと思ったんです。
萩本 「欽ちゃんってコワイよ」
という人が、何人か出てきたところで
ぼくはコワくなりました。


それから、テレビができなくなりました。
糸井 コワくしたおぼえは、なかったんですか?
萩本 怒鳴りもしましたよ。

ただ、怒鳴るというのは、
「ここで怒鳴ることで、
 よろこぶ人がひとりいる」
という場合だけです。


怒鳴ったとしても、
そいつだけがつらいときには、
怒鳴りません。

タレントさんが、
マイクを乱暴にバタンとやったときに、
「落とすんじゃない!」
……これは、音声さんが言いたいのに
タレントさんには言えないことだから、
ということで、伝えるんです。
糸井 代理出産みたいな怒鳴りで。
萩本 そうです。
15歳の子どもが出ていて、
ヘンなことをやっているとする。

そうなると、
15歳の子のプライドなんかよりも、
いつも番組を作っているスタッフが、
イヤにならなかったり、
素人をイヤにならないまま仕事をやる、
というほうが、大事なわけね。

一生懸命、
カット割りして撮っているのを
邪魔するような15歳には、
「バカ野郎!」
スタッフの代わりに、そう言います。
言ってやらなかったら、
カメラさん、かなしくなるもの。

タレントさんには悪いかもしれないけど、
カメラさんや照明さんには好かれるわけで。
糸井 つまり、画面に映ってない
チームの人数のすごさを、
いつでも、意識しているということですか?
萩本 そうしないと……。

つまり、あの人たちのパワーが出ないと、
番組は、当たらないんです。


タレントだけで取れる最大限の数字は、
おそらく、どんなに人気があったとしても、
8%しか出ないと思います。

でも、ディレクターが
「この仕事はたのしい」
と思ったら、
そこを20%に持っていってくれます。
あとは、カメラさんが、
「この仕事、やってやるぜ!」
と思ってくれたら、30%になる……。

そう考えていくと、
ヒマそうにしている、
カメラさんのうしろのアシスタントの姿に、
大きなヒントが隠されているんです。
ぼく、そういう人ばかり、見ちゃいます。
糸井 そういう人たちが
生き生きしてる現場は、いいですよね。
萩本 そうでしょう?

「いい上司がいて、
 この番組につながっているんだなぁ。
 血が通っているぞ。
 ……この番組は、いくぞ!」


そうなる。

そこのアシスタントが、あくびをしていると、
どこかに、血液が通ってないところがあるわけで。
「この番組、ちょっとヤバイ」と思いはじめます。

まわりから、問題が見えてくるんです。
糸井 そうかぁ。
萩本 コーヒーを持ってきてくれるのが、
大道具さんだったりすると、うれしいんです。

座ったら、ADの人が、
「どうぞ」
とコーヒーを置くのがふつうだけど、
美術の人が、コーヒーだよとも言わずに、
だけど、やる気はとてもありそうな姿で、
黙って、コーヒーをポンと置いてくれる。

「コーヒー持ってきた、ぐらい言えよな」

とは言うんだけど、
なんか、血が通ってる気がしないですか?
糸井 わかります、わかります。
萩本 きっと、この番組の美術は、
困ったことがあったら、
助けてくれるって気がするから。

カメラさんがさ、
わざわざ楽屋に来るのもいいよね。

「欽ちゃん、あのアドリブで
 急にひっくり返っただろう?
 撮ったよ、撮った。俺、撮った!
 急にだもんなぁ、もう。
 危ないけど、撮ったからね!」

そう言いにきたら、
「……きた!」と思わないですか?

なんか、いい人と
仕事をやっているなという気がしません?


なんか、ほんとにイヤなときを、
イヤじゃなく乗りきれちゃうのが、
当たる番組のすごさ、なんですよね。

カメラさんが、打ちあわせにいたりしてね。
「あの人、誰ですか?」
「カメラさんです」
「なんで、いるの?」
「ききたいから、だそうです」
こんな人がいたら、番組は、当たりですよ。

そういう人たちが、
生き生きと仕事をしはじめたら、
やるほうもがんばって、
「あとであの人と抱きあって、
 『やったね!』と言いたいなぁ」
と思うようになる。

そういうときには、もう、
100%、番組は当たります。
  (明日に、つづきます)

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2004-09-20-MON

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