山下 |
うわあ、これはかわいい。 |
大沼 |
元気いっぱですよね。 |
山下 |
地元の小学生が描いたこけしなんですか? |
大沼 |
そうですね、
このあたりの小学校の生徒たちです。
わたしら工人が学校で指導をしとります。 |
大沼秀顯さん(既婚)は、
鳴子こけしの工人(こうじん)さんです。
工人とは、こけしの型をろくろで削り
それに絵をつける
つまりはこけし職人さんのこと。
初秋のこの日、僕は鳴子温泉で行われるという
「全国こけしまつり」を訪れていました。
なぜかというと、
こけしに大変興味があるからです。
おまつりの拠点となる小学校の体育館では、
「全国こけしコンクール」に
出品された作品が並び、
工人さんの実演が行われ、
即売会も実施されていました。
このような会場の片隅で、僕はみつけたのです。
工人さんの匠の技とはまた違った輝きを見せる、
小学生が描いた純粋で愛らしいこけしたちを。
「指導した工人さんが必ずここにいるはず!」
果たして予想は的中。
僕は工人・大沼さんに
巡りあうことができました。
大沼さんのお話、うかがってまいりましょう。
素敵な東北なまりをイメージしつつ
お読みください。 |
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山下 |
何年生が描いたこけしなのでしょう? |
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大沼 |
これらは小学6年生のみですね。 |
山下 |
そうですかあ‥‥
来年は中学生といっても
まだ子どもらしい素直さにあふれてますね。 |
大沼 |
んですね、みんな素直に描きます。 |
山下 |
どれから紹介したらいいのか‥‥。
ええと‥‥これなんかどうでしょう? |
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大沼 |
子どもらしい。 |
山下 |
はい、かわいらしいですね。
‥‥あと、こちらですとか。 |
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大沼 |
はい、かわいいですな。
一生懸命描いとります。 |
山下 |
からだの部分に工夫してる子もいますよ。
ほら。 |
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大沼 |
りんご。
これは顔もやさしぐて、いいこけしです。 |
山下 |
女子の作品ですよね、きっと。
‥‥あ(笑)、
明らかに男子の作品もありました。 |
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大沼 |
野球が好きなんですなあ。 |
山下 |
野球好きの男子がここにもいますよ。 |
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大沼 |
ああ、ははは。 |
山下 |
こけしが楽天のユニフォーム着てます。 |
大沼 |
宮城はほら、楽天だがら。 |
山下 |
なるほどどお‥‥。
‥‥54番ってだれでしたっけ? |
大沼 |
はてっ、だあれだっだか。
‥‥だれでしたっげねえ。 |
山下 |
いや、ま、野球のことはともかく、
僕はこのなかにですね、最初からすごく
気になっているこけしがあるのですよ。 |
大沼 |
そうですか、どれでしょう? |
山下 |
これです。 |
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大沼 |
ああ‥‥‥‥。 |
山下 |
すごいと思いました。 |
大沼 |
ええ、なかながの味わいです。 |
山下 |
じわりじわりと心がつかまれます。
この顔にじっとみつめられると‥‥。 |
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大沼 |
どの子もね、一生懸命描いてくれるんです。 |
山下 |
ふざけたりしないで。 |
大沼 |
はい。
地場産業を知るという授業の一環で
やるということもあるんでしょうけどね。 |
山下 |
そうかあ、完全に自由にすると、
キャラクターを描いたり
もっとふざける子もでてきそうですよね。
それはそれで面白そうですが‥‥。
なるほど、この微妙に真面目な感じは、
授業でやっているからなんですね。 |
大沼 |
みんな、自分なりのこけしをね、
それぞれ心こめて描いてるんですな。
何度も修正したりしながら。 |
山下 |
‥‥はい。
作者の本気がぐいぐい伝わってきます。 |
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山下 |
大沼さんは、どのくらい前から
小学生にご指導なさっているのですか? |
大沼 |
ん? どんくらい前。
ええど‥‥あれはもう、
10、いや15年ぐらい前からですかねえ。 |
山下 |
そうですか、そんなに前から。 |
大沼 |
昔は、もっとね、
とんでもないの描く子がいましたよ。
全身まっ黒いこけしとか。 |
山下 |
まっ黒! 炭ですね(笑)。 |
大沼 |
あとは、広大な風景画を描いたり。 |
山下 |
へえ〜。 |
大沼 |
最近の子どもたちは、
これは今の時代だからなのかなあ、
ちゃんと真面目にこけしを描いてくれる。
伝統を大切にしてくれるのは
もちろんうれしいんだけど、
なんがね、たまには枠がらはみ出しても
いいかなってね、思うこともあります。 |
山下 |
そうですかあ‥‥。
ですが僕は、
あくまでこけしの枠から逸脱しない範囲で、
それでも自由にのびのび描いている
この絶妙な感じがとても好きです。 |
大沼 |
ありがとうございます。
子どもたちもよろこびます。 |
山下 |
これなんかも、いいですよねえ。 |
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大沼 |
ええ、なかなか魅力的です。 |
山下 |
これも面白いなあ。ちょっとスネてる? |
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大沼 |
はい、独創的ですな。 |
山下 |
こちらは、ちょっと悲しげな‥‥。 |
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大沼 |
墨がにじんでこいう表情になったんですね。
こうした偶然も面白いです。 |
山下 |
これもすごいなあ‥‥。 |
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大沼 |
繊細なタッチで。 |
山下 |
こっちのは、これもう、爆発してます。 |
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大沼 |
いいですね。晴れやかなこけしです。 |
山下 |
いやあ、まだまだあるんですが、
とても紹介しきれませんです。
どれもこれも思いが込められていて
ほんとにかわいらしい。 |
大沼 |
んですな。きりないですな。 |
山下 |
大沼さん、ちょっと難しい質問でしょうが、
いちばん好きなのとか、ございます? |
大沼 |
いちばんですか。 |
山下 |
ええ、大沼賞をあげるならということで。 |
大沼 |
‥‥‥‥はてっ。 |
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山下 |
‥‥‥‥‥‥難しいですよねえ。 |
大沼 |
‥‥‥‥‥‥これがな。 |
山下 |
おお、こちら。 |
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大沼 |
うん、それだな。 |
山下 |
はい、とてもかわいらしいと思います。
‥‥ですが大沼さん、
意外と正統な作品を選ばれましたね。 |
大沼 |
ねえ(笑)、
枠がらはみ出してとが言ったくせにねえ。
‥‥うーん、でも私は工人なので、
やっぱり大沼賞というこどになっと、
顔のいいのを選んでしまうなあ(笑)。 |
山下 |
お顔。 |
大沼 |
ええ、顔がいちばん大切だから。
こけしはそこで決まりますからね。 |
山下 |
なるほどお‥‥。 |
大沼 |
ええと‥‥あなた‥‥お名前は‥‥。 |
山下 |
あ、山下です。 |
大沼 |
山下さんはどうですか?
どれがいちばんですか。 |
山下 |
はい、僕はもう、迷うことなくこれです。
気になって仕方がありません。 |
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大沼 |
そうですか。 |
山下 |
みればみるほど、じわじわきます。
からだはチューリップだし‥‥。 |
それから僕は、コンクールに出品中の
大沼さんの作品をみせていただくことに。
会場のメインコーナーに向かいます。 |
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山下 |
これが大沼さんのこけしですか‥‥。 |
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大沼 |
ええ、ことしの作品です。 |
山下 |
ちょっと手に取ってよろしいでしょうか。 |
大沼 |
どうぞどうぞ。 |
山下 |
では、大きいのを(手に取る)‥‥。 |
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山下 |
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。 |
大沼 |
いかがでしょう。 |
山下 |
‥‥顔が大切とおっしゃった意味が
なんとなくわかったような気がします。
僕自身まだまだ造詣は深くはありませんが
すばらしいと思います。 |
大沼 |
ありがとうございます。 |
山下 |
‥‥‥‥あれ?‥‥‥お、大沼さん。 |
大沼 |
なんでしょう? |
山下 |
‥‥こちらのプロフィールに、
大沼秀顯
平成17年 第51回コンクール
最高賞「文部科学大臣奨励賞」受賞
と書いてありますが‥‥。 |
大沼 |
ええ、去年のコンクールでね
一等賞いただいたんですよ。 |
山下 |
‥‥そ、そうでしたか。
たいへんなかたにお会いしていたのですね。 |
大沼 |
いやいやそんな。 |
山下 |
本日はどうもありがとうございました!
で、大沼さん、
ここで絵付け体験ができるようですが‥‥。
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