その50 無人島、午前4時
奄美の有人8島のうち一番小さな与路島。
その与路島の脇に寄り添うように位置するのがハンミャ島、
白砂と岩礁に囲まれた無人島です。
7月末のある日、海鳥の繁殖地として知られるこの島で
奄美野鳥の会の有志がキャンプをしました。
ハンミャ島で繁殖する海鳥は何種類かいるのですが、
観ていて飽きないのはオオミズナギドリでしょうか。
水薙鳥(みずなぎどり)の名前の通り、
海上を飛んでいる姿は勇壮かつ華麗。
波をぎりぎりかすって低空飛行したかと思うと、
一転上昇してグライダーのように滑空する。
三角関数のサインカーブを描くかのように
規則正しく上昇と下降を繰り返して空を舞います。
ところが空の飛行巧者は、陸では無力。
日が落ちると島の急斜面に掘った巣穴に戻ってきますが、
その帰宅のありさまがひどい。ひどすぎる。
普通、鳥は自分の巣に正確に舞い降りるものでしょ?
オオミズナギドリの場合は適当にぼとぼとと落ちてくる。
途中で木の枝に引っかかったり、斜面ですべったり、
さんざん迷って悪戦苦闘。ようやく自宅に戻るのです。
お出かけがまたひと騒動。
体が大きくて重いオオミズナギドリは
地面から直接飛び立つことができません。
したがって高台や木の上から飛び降りてをはずみつける。
早朝暗いうちからミューミューグァーグァーと声を出し、
踏み切り台めがけ、斜面を一生懸命登るのです。
三歩登っては一歩すべり、そのたんびに鳴き喚く。
その騒がしいこと不器用なこと。
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必死に急坂を登るオオミズナギドリ
オオミズナギドリが死に物狂いで離陸している午前4時頃、
空には満天の星がきらめいています。
しばし砂浜に寝転がって天文観測としゃれこみましょう。
夏の夜空を代表するさそり座ははるか西のほうに去り、
オリオン座の1等星ペテルギウスが東の空に顔を出す時間。
おうし座のアルデバランの脇に双子のような赤い星―土星!
望遠鏡をのぞかせてもらうとくっきりと輪が見えます。
「輪っかって本当にあるんだ!」
たあいもなく当たり前のことに感動します。
しばらく待つと土星の下から素晴らしく明るい星が登場。
明けの明星、金星です。
金星に見とれていると視界の端を流れ星がツーと横切る。
願い事をする余裕もなく見とれてしまいます。
「こっち観て」という声に導かれ視線を南に転じると、
エリダヌス座のアケルナルが水平線上に浮かんでいる。
奄美より南でないと観れない1等星と聞き、またまた感動。
視線を東に戻すと金星の下にまたひとつ明るい星が!
いつの間にか木星が昇っていたのです。
土星、金星、木星が一直線に並びました。
これが黄道、つまり太陽の通り道。
太陽に照らされて、惑星たちが光り輝いているのです。
そろそろ東の空が白んできました。
まもなく木星の下から太陽が晴れやかに顔を出すはず。
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