日比野 | パルコ、西武、ビックリハウスとか、 メディアとしていろんなものが出てきた時期で、 NHKでは『YOU』があったりして、 だから僕は、渋谷あたりで、 だいたい成立してました。 |
糸井 | 渋谷あたりで(笑)。 渋谷という場所が、同時にあのとき 出てきたんだね。 当時、いろんな人が 美術の世界から出てきたけど、 イラストレーターになるんだ、と 決めちゃう人と決めきれない人に分かれて、 決めきれない人のほうが、逆に 長持ちしたということも、 あるかもしれない。 |
日比野 | そうですね。 |
糸井 | おんなじタイプのことに絞ったほうが 効率がいいんだけど、 「どうもちがうな」という気持ちを 持ってるほうがいいのかもしれないね。 このときは、もう日比野くんは、 学生とはいいながら さまざまなことをやってただろうし。 |
日比野 | 「おめでとうのいちねんせい」は 連載が1983年からはじまったんで、 ちょうど駆け出しのころですよ。 これが、一発目の、おばけ。 |
糸井 | 「ぼく おばけだよ」が、 そうだね、連載の第1回。 |
日比野 | これはたしか、八百屋さんのダンボールに 描いた絵です。 あとになると、ダンボールは、 箱を買い足しましたけど、 このときはもらってた。 |
糸井 | 「おめでとうのいちねんせい」の作品って、 けっこう、さっとやるの? |
日比野 | もう、速い速い。 |
糸井 | 折り紙つくるみたいに? |
日比野 | そうそう。 絵の具が乾くのが待ってられない! くらいの感じです。 早く形にして、早く形にして、 って感じでやってました。 ですから、立体作品の裏なんてもう、 テッキトーに、ガムテープで ベタベタになってます(笑)。 |
糸井 | ということは、 日比野くんの中に、 ちょっとパフォーマンスのようなところが あるんだね。 |
日比野 | あ、そうですね。 |
糸井 | それは、自分だけが見てる パフォーマンスというか‥‥。 |
日比野 | そうそう、そうです。 だから、展覧会よりか、 自分のアトリエがいちばんおもしろいな、 と思うときがあります。 |
糸井 | なるほど。 |
日比野 | 展覧会ってなんだかウソのようで‥‥ もっと言えば、 展覧会って自分の居場所がないんですよ。 それに最近、気がつきました。 |
糸井 | そのとおりだね。 |
日比野 | 展覧会の会場に立ってる自分って なんだかさまにならないなぁ、って しみじみ思ったんです。 いらっしゃいませ、ありがとうございます、 どうですか、また来てね(笑)。 僕は用なしだと思います。 でも、アトリエだと自分が主役です。 |
糸井 | うん。そうだ。 それは、オレの「打ち合わせ」と同じだ。 打ち合わせがいちばん好きだし、 打ち合わせのときに、いちばん 頭を使ってるからですね。 いま、こうして話してるのもそれに似てるよ。 |
日比野 | アトリエと打ち合わせがおもしろいのか‥‥。 |
糸井 | ところで、ここに 「おめでとうのいちねんせい」の 連載のリストがあるんだけど、 日比野くん、覚えてる? |
日比野 | 覚えてます。作品のことは、覚えてます。 全部、ぼくの実家にあります。 |
糸井 | 実家、はははは。 |
日比野 | へぇええ、これが、全部かぁ。 (パラパラ見る) あ‥‥覚えてないのもある。 |
糸井 | あ、そう。 |
日比野 | 81篇もあるんだもの。 |
糸井 | ねぇ? そんな回数やったと思うと、すごいねぇ。 |
日比野 | (作品を見ながら)ねぇ。 |
糸井 | いくつか教科書に載ったものもありますね。 その詩がどうして載ったのか、 なんとなくわかる気がするんですよ、 大人が選びたくなるような詩だったから。 だけどオレのほうは、 子どもでも書けるようなものを 書きたくて書いてました。 そこだけは、たぶんずっと、 一貫してたんじゃないかな。 |
日比野 | それはすごい話だな。 |
糸井 | なつかしいよね。 ほんとにね。 (つづきます) |
2009-02-12-THU