ぼくがトスカーナでのヴァカンスを続けている、
まさにその間に、カルチョ・メルカートの方は、
ここ数年のイタリアにはまったく無かったほどに
燃え上がっているようです。
インテルがイブラヒモヴィッチを
エトーと交換にバルセロナに譲渡し、
モウリーニョ監督は
モラッティ会長のこのやり方に激怒しています。
このポルトガル人の監督は、
イブラヒモヴィッチの譲渡を
まったく望んでいませんでしたが、
スウェーデン人選手イブラヒモヴィッチと
モラッティ会長の関係は消耗しきっており、
もはや修復できなかったのでしょう。
イブラヒモヴィッチと交換に、
エトーとフレブ、そして
4500万ユーロをインテルは受け取ります。
総括的には約6000万ユーロほどの価値ですから、
これはクリスティアーノ・ロナウドの、
マンチェスターUから
レアル・マドリードへの移籍にともなう金額に次いで、
2番めの高額です。
ヴァカンス中のぼくに届いた
これらのカルチョ・メルカートの騒ぎは、
遠くからの、まるで遠くの惑星からの
こだまのように思えます。
ぼくが今いるのは、イタリアの歴史上、
そして芸術的にとても大切な場所である、
トスカーナとウンブリアが接するあたりです。
ここでサッカーとお金の話をするなんて、
これから訪れようとしている町に対して失礼だと、
ぼくには思えるのです。
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きれいに澄んだ空気と、
風にサラサラと衣ずれのような音を立てる
オリーヴの木々の間から、
コルトーナの町が忽然と姿を表します。
世界遺産キアーナ渓谷を見守る丘の上に
静かにたたずみ、3千年以上も前には
エトルリア人たちが住んでいたこの町の、
なんと輝かしく華麗な姿よ!!
数千年の歴史の足跡が、
コルトーナの公立博物館に収められています。
ここは、イタリア半島で最初の文化的市民である
エトルリアに関する博物館の中でも、
最も重要なもののひとつです。
中に入ってみましょう。
素晴らしい彫刻のほどこされた
ブロンズの燭台があります。
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天井から吊るすタイプのもので、
2メートルほどの高さから
あたりを照らす格好です。
今の感覚からすれば「薄暗い」のですが、
電気の無かった当時にしてみれば、
太陽の光が月と入れ替わったあと、
あたりをすっぽりと包む暗闇の中で、
この燭台からの光がもたらす明るさは、
まるで奇跡のようだったことでしょう。
ここには目が覚めるような金のブレスレットも
保管されています。
3千年を超えてなお、その黄金の輝きは
損なわれずに保たれています。
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この気高い宝物を見ていると、
金が金属の王様であり、
本当にそう呼ぶにふさわしいというのが、
よく分かります。
金の市場価格の動きを見るまでもなく、ね。
金細工は、まさにこの地と、
コルトーナから数十キロメートルほどの所にある
アレッツォで生まれ、アレッツォは今も
イタリアの金の中心地です。
数千年前の墓から発見された
魅惑的なエトルリアの花瓶の数々は、
この博物館を特別なものにしています。
遠いエトルリア時代のブロンズ、金、陶磁器‥‥。
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博物館を出ると、コルトーナの町は、
その雰囲気や記憶のなかに、
中世の面影を色濃く残しています。
コルトーナの町全体が
オープンな博物館と言ってもいいでしょうね。
この町全体の空気に、ぼくは、
とても神聖さを感じるのです。
イタリア美術史を作った絵画の数々は、
ディオチェザーノ博物館で見られます。
たとえば、15世紀に
ベアート・アンジェリコが描いた「受胎告知」が、
ここにもあるのですよ。
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神がつかわした天使が、処女マリアに、
神の子イエス・キリストを生むであろうことを告げる、
キリスト教にとってとても重要なこの瞬間は、
多くの画家たちが絵画として
永遠に残しています。
そして、ルネサンス期の画家で、
まさにコルトーナが生んだルカ・シニョレッリの
絵画の数々や、
ペルージャ出身の画家ピントゥリッキオの
「聖母」などが、この博物館に
世界で一番の幸せをもたらしています。
カルチョ・メルカートのざわめきや、
レアル・マドリードへ行ったカカ、
バルセロナへ行ったイブラヒモヴィッチ、
インテルに来るエトーなどの話は、
ここでは、先ほども言いましたが、
「遠い世界」のことのように思えます。
幸いなことに、今、
ぼくは本当にミラノから、その喧噪から、
遠く離れているのです‥‥。