太陽が昇るように規則正しく、
今年も2月にヴェネツィアの謝肉祭が催されました。
この時期のヴェネツィアは、
たくさんのドラマやシルクやダマスク織りを身にまとい、
古代ローマから続くとても奔放な
謝肉祭(カーニバル)色に染まります。
カーニバルといえばブラジルの、
リオ・デ・ジャネイロのものが有名ですが、
あちらブラジルのカーニバルは、
悲しみや貧困を忘れるために
庶民が感情を分かち合い、爆発させる場です。
ヴェネツィアのものは、これとは異なります。
リオではセミヌードの派手な踊り子たちが
セクシーな熱狂をあおるように踊りますが、
ヴェネツィアでは、
熱狂と言う意味ではリオよりずっと控えめです。
色恋にはまったく無関係とは言わないまでも、
いずれにせよすべてが良い趣味や
洗練されつくしたエレガンスに満ちています。
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18世紀、カサノヴァの時代には、
ヴェネツィアのカーニバルは
数日のお祭り騒ぎをするチャンスでした。
プレイボーイとして有名だったカサノヴァのように、
その数日間にはセクシーな関係も
優美さをかなぐり捨てて奔放になりました。
男女が互いの素性がバレないように仮面をつけて
愛をささやきあい、うまく行けば、
その場かぎりの小さな恋の物語の仕上げとして、
ベッドが待っていたのです。
たとえば一人の夫が海賊に扮して
魔女の姿の女性を口説き、
ベッドをともにした後で、
その魔女は彼の妻だったのが分かった、
なんてことも、起きなかったとは言えません。
伝統的に、男も女も、ベッドにいる最中でさえ、
仮面を外さないのが礼儀ですからね。
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これら全てが、笑って済ませる
娯楽のうちの出来事だったのです。
かつてのヴェネツィアは、小さな共和国ながら、
大きな船団を擁しておりました。
これらの船団は、東洋に行っては
スパイス類や香料、高価な浮き織りの生地や
シルクなどを積んで帰って来ました。
そして、それらをヨーロッパ中に供給する
輸入業の窓口だったのです。
したがって、絢爛豪華な衣装にも事欠きませんでした。
小さなヴェネツィア共和国が最も輝いていた時期には、
ドイツとイギリスを合わせたよりも裕福だったそうです。
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さて2009年の謝肉祭も、
良い伝統にそむかない、エレガントなものでした。
毎年、幕開けのショーは
「天使の飛翔」と決まっています。
もし天使がうまく飛べば、
誰もが恋のサクセスに恵まれ、
もし雨や風が邪魔をしたら、
その年はあんまりラッキーではないかも、
という占いの一種のようなものです。
上手く行けば人々は楽天的になり、
逆の場合はがっかりします。
あんがいみんな本気ですよ。
今年の天使役はファッションデザイナーで
女優のマルゲリータ・ミッソーニでした。
彼女のお祖父さんはオッタヴィオ・ミッソーニ、
そう、あの「ミッソーニ」、
イタリアのファッションを優れたものとして
世界に知らしめた巨匠の一人です。
太陽が輝くその日、10万人を超える人々が
マルゲリータの飛翔に立ち会いました。
サン・マルコ大聖堂の鐘楼から
ワイヤーにつながれた彼女が飛ぶのです。
オッタヴィオお祖父さんが
一手に引き受けてデザインした、
スパンコールのついた白い衣装を身にまとい、
天使の大きな2枚の羽根をつけて、
23歳になったばかりの若いマルゲリータが、
10万人が息を止めて見守る中、
空中に舞い降りました。
およそ70メートル飛んで、
広場の反対側にある舞台に無事着地。
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それは実にエレガントで幸福なショーでした。
春のような光のあふれる日に、
全てが完璧に進行したのです。
大役を終えたマルゲリータは、
感動のあまり涙が止まらないようでした。
もちろんお祖父さんのオッタヴィオも、
お祖母さんのロジータも、ね。
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