毎日がクリスマスだったら。(ナポリにて)
カンツォーネ・ナポレターナの中で最も有名な
「オー・ソーレ・ミーオ」(私の太陽)の歌詞は、
まさにナポリ人の性格や気質を映し出しています。
彼らは陽気で、
でも幻想にとらわれているのではなく、
いつも人生のポジティブな可能性を
かき集める準備ができているのです。
そしてそのかき集めた良い可能性を、
明日のためにとっておくことができるのです。
今日の一瞬一瞬を最高に楽しむためには、
明日は来なくて良いとまで、望んでいたとしても。
さて、「オー・ソーレ・ミーオ」の歌詞ですが、
これはナポリ語であって
イタリア標準語とは少し異なります。
Che bella cosa na jurnata 'e sole!
N'aria serena doppo a na tempesta
Pe' ll'aria fresca pare gia' na festa
Che bella cosa na jurnata 'e sole!
(太陽のある1日は何て素晴らしいのだろう!
嵐の後のような穏やかな空気、
そしてこの新鮮な空気があれば、
もうお祭りのようだ、
太陽のある1日は何て素晴らしいのだろう!)
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犬のようすで街がわかります。 |
ある素敵な朝に、
ぼくは飛行機でミラノからナポリに到着し、
魅惑的な魔法は海沿いの道ですぐに始まりました。
南国のナポリの太陽は、冬でも優しく柔らかです。
素晴らしい一日を約束してくれるような日差しに、
人間は嬉しくて歌いだしたくなり、
犬たちも‥‥‥‥ごらんの様子です。
太陽が犬たちを海岸通に寝転ばせ、
かれらにも家庭的なぬくもりを満喫させております。
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野良犬ではありませんよ。
清潔で良く手入れされた犬たちです。
彼らは、ぼくが近づくまで眠り続けていました。
やがておもむろに脚を伸ばした様子は、
深くて満足な眠りの後の朝に人間が目覚めて、
う〜んと腕を伸ばすときにそっくりです。
彼らは、お行儀も、良いのです。
人が通り過ぎるのをまるで無関心なように見やり、
すぐにもまた新しい眠りに入りそうな目のまま
車の行き来を見ているだけで、
なにか悪さをすることはありません。
ナポリは他のどの街とも似ていません。
例えば、このクリスマスの時期には、
ミラノ、ローマ、フィレンツェ、ヴェネツィア、
トリノでもピサでも、
人々は友だちや家族へのプレゼントの買い物で
慌ただしく過ごしますが、
ナポリでは1年中がクリスマスみたいなものです。
人々が喜びにあふれているという点で。
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ナポリの食事のおいしさ。 |
ぼくは、この矛盾に満ちた魅惑的な街の
典型的な3つのことを楽しむために
ナポリにやって来ました。
つまりエスプレッソコーヒー、ピッツァ、
そしてナポリ風のソースのパスタです。
ここのエスプレッソはイタリアで一番おいしい、
とぼくは信じています。
ナポリでは、バールでエスプレッソを飲むことは、
単なる楽しみでは終わりません。
それは一日を最高の状態で始めるための儀式です。
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そして昼にはピッツァをいただきましょう。
あの有名な比類無きナポリのピッツァ・マルゲリータは、
19世紀半ばに、マルゲリータ王妃が街を訪れ、
特別なピッツァを所望なさった時に発明されました。
新鮮で弾力があって軽いピッツァ.マルゲリータは
王妃に捧げるにふさわしい風味です。
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ぼくは正直に、ナポリのピッツァは世界一だと
白状しなくてはいけません。
ほんとうにシンプルなピッツァです。
粘りがあってカリカリした台に、
水牛のモッツァレッラとトマトが乗せられ、
全てが窯で繊細に焼かれる、たったそれだけです。
それなのにナポリのピッツァは、
色で目に、香りで鼻に、風味で口中に、
まるでお祭りのような喜びを満たしてくれます。
一日の締めをかざる晩餐は、
豚肉と生ソーセージとトマトソースとバジリコとで
少なくも6〜7時間かけてつくるナポリ風ソースのパスタ。
これで決まりです。
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ナポリのなかでも有名なレストラン
「Mimi alla Ferrovia(鉄道のミミ)」の店主は、
ぼくを少なくも30年は知っているミケーレさんで、
ぼくがナポリに到着すると、
友人たちを交えた翌日の晩餐は
ナポリ風ソースをベースにして用意すると、
いつも約束してくれます。
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そして、その「翌日の夜」は、
まるで天国での晩餐のようです。
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ナポリ風ソースのパッケリというパスタ、
それから肉入りソースを準備するために使われた肉、
そして「フリアレッリ」という、
ヴェスビオ火山の斜面に育つ苦い特別な野菜‥‥‥
そしてデザートは、ラムのとても繊細な香りの
「ババ」というお菓子です。
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ここでもナポリのエスプレッソを飲み、
近づくクリスマスの飾りのある、
有名なVesuvioというホテルに戻ります。
駆け足でミラノに戻れば
ナポリは思い出になってしまいますが、
しかたがありません。
遅かれ早かれ、ぼくはまたナポリに来るでしょう。
エスプレッソとピッツァと、
太陽の下で眠り込む犬たちに会いに。
そして忘れがたい一瞬一瞬を、
ふたたび過ごすために‥‥‥。
訳者のひとこと |
イタリアでは
Vedi Napoli e poi muori.
ナポリを見てから死ね。
(ナポリを見ずして死ぬな)
と言われます。
残念ながら私はナポリを
まだ見ておりません。
ですから、まだ死ねません。
私が留学していたのはミラノで、
ミラノの大人たちからは
「女の子だけで
ナポリへ行ってはいけません」と
言われていました。
イタリア北部の偏見もあったのでしょう。
ナポリが大変に魅力的であるのは確かです。
光と影、そのコントラストが激しいほど、
街の表情は美しく興味深いと思います。
イラストのプルチネッラはイタリア古典喜劇の
代表的なキャラクターのひとりで、
ナポリ出身の召使いです。 |
翻訳/イラスト=酒井うらら |
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