糸井 |
じつは、今日、
なんの用事もないんですよ(笑)。
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ジル |
(笑)
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糸井 |
こういうことを話そうっていうような
テーマとか義務は、なんにもないんです。
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ジル |
わかりました(笑)。
糸井さんと最後にお会いしたのは、
2008年の夏ごろでしたでしょうか?
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糸井 |
東京で。
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ジル |
そうです、そうです、
『ZED』のシアターで会いましたね。
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糸井 |
はい。
ぼくのオフィスにはいまでも、
あのときあなたにもらった
竹馬の写真が飾ってあるんです。
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ジル |
ああー。
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シルク・ドゥ・ソレイユが結成されるよりも前、
ジルは、ストリートでのパフォーマンスを中心にした
グループを結成しようと思いたちますが、
それには、資金が足りませんでした。
政府の資金援助が頼みの綱でしたが、
申請するには自分に実績が足りない。
そこでジルは、ベ・サン・ポールからケベック市まで
57マイルを竹馬で歩いて移動するという冒険に出ます。
2ヵ月をかけてジルはその道を竹馬で歩き、
その実績をかわれて政府からの資金援助を得ます。
それが、シルク・ドゥ・ソレイユの礎となったのでした。
糸井がジルからもらった写真は、
そのときの竹馬姿のジルを撮影したものです。 |
糸井 |
あれは、ほんとうにすばらしい。
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ジル |
じつは、あの「竹馬」が、
いま、ここにまだあるんですよ。
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糸井 |
え? そのものですか。
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ジル |
はい。
なぜあるかというと、60歳になったとき、
募金活動の一環として、
もう一度、竹馬で歩いてみたんです。
もちろん、同じ距離ではありません。
5キロだけでしたけど、やってみました。
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糸井 |
へぇー。
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ジル |
60歳でも、まだ竹馬で歩けるかなぁ
と思いまして、やってみました。
なんとか、歩き通しましたよ。
たのしかったです。
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糸井 |
おーー。
そういうモニュメントになる道具が
あるというのはいいですね。
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ジル |
はははは。
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糸井 |
ぼくは、そういうものをなにも持ってない。
思い出だけです。
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ジル |
思い出だけ?
でも、あなたを支持する多くの人がいますね。
これはもう、モニュメントと同じです。
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糸井 |
ありがとう(笑)。
そう、たとえば、昔、つくった歌なんかは、
ぼくのモニュメントかもしれない。
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ジル |
ああ、それはそうでしょうね。
でも、気をつけてください。
もし、30年前に愛した女性のために
つくった歌だったら、思い出とともに、
その女性がまた戻ってきてしまうかもしれない。
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糸井 |
(笑)
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ジル |
もし歌うなら、隠れて歌ってください(笑)。
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糸井 |
わかりました(笑)。
たぶん、お会いしないあいだに
お互いに変化があったと思いますけど、
ジルさんにとって、なにか変化はありましたか?
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ジル |
そうですね。
いくつかのショーを完成させました。
2009年のクリスマスに、
エルヴィス・プレスリーを
テーマにしたショーをつくりました。
これは、成功しました。
そのあと、クラウン
(ふつうのサーカスでいうピエロのこと)を
テーマにしたショーをつくったのですが、
これが‥‥うまくいかなかった。
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糸井 |
ほう。
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ジル |
『バナナ・シュピール』という
タイトルのショーです。
「バナナの皮ですべってしまって‥‥」
というようなお話なんです。
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糸井 |
オールドファッションなコメディー?
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ジル |
そういう感じです。
でも、ショーのテーマとして
「バナナ」を使ってはいけません。
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糸井 |
なぜ?
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ジル |
危ない。すべるから。
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糸井 |
ほんとに危ないんだ(笑)。
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ジル |
ニューヨークでやったんですけど、
まさに、すべりました。
切符も売れないし、評判も悪い。
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糸井 |
そんなこと、あるんだぁ。
いや、シルク・ドゥ・ソレイユは、
そんな失敗をしないと思ってました。
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ジル |
はい。
はじめて、ありました、そういうことが。
ほんとうに、はじめてのことでした。
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糸井 |
でも、きっと、よい経験にもなったんでしょうね。
やっぱり、ぜんぶ成功する人の話って
そんなに豊かにならないというか、
失敗のなかにこそ、
その人の個性って出たりするから。
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ジル |
はい、そうですね。
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糸井 |
たぶん、そのクラウンのショーは、
あなたがとってもやりたいショーだったか、
あんまりやりたくなかったショーだったか、
どっちかだと思うんです。
やりたくないものを無理にやるのは
よくないのは当たり前ですが、
やりたすぎるやつも、危ない。
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ジル |
ああ、そのとおりですね。
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糸井 |
そのショーは、いまどうなってるんですか?
まさか、そのまま
終わらせてしまったわけではないでしょう?
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ジル |
『バナナ・シュピール』の話ですか?
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糸井 |
ええ。
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ジル |
終わらせました。
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糸井 |
おー、それは、はじめてのこと?
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ジル |
はじめてのことです。
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糸井 |
うーん、それはすごい経験ですねぇ。
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ジル |
そのとおりです。
反省させてください。
はははははは。
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糸井 |
いや、驚きました。
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ジル |
私も、ショックでした。
でも、いまとなっては、
『バナナ・シュピール』の
ショーとしての問題点は、
はっきりしています。
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糸井 |
なんでしょうか、それは?
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ジル |
問題は、クラウンを中心にした
ショーだったということです。 |
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(つづきます) |