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糸井 |
あなたは、ぼくが想像していたよりも、
ずっとロックで、ヒッピーな人ですね。
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ジル |
ロックンローラー、ヒッピー、イエス。
実際、私は勤めていた建築事務所を辞めたあと、
コミューンに入っていたんです。
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糸井 |
うん、ヒッピーのコミューンですね。 |
ジル |
もちろん、そうです。
ケベックに戻ってきたあとも、
私はコミューンの中で生活しました。
そういった共同体の中には、
1960年代特有の価値観がありました。
それは、いっしょに生活をしながら、
「よりよい世界をつくっていく」
という目標を持つことです。
私はその価値観に基づいた形で演劇集団をつくり、
やがてそれはシルク・ドゥ・ソレイユに
なっていったんです。
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糸井 |
はい。とてもよくわかります。
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ジル |
いまでもその価値観は
シルク・ドゥ・ソレイユの中に活きています。
たとえば、私たちはクリエーターの集団であって、
神さまでもないし、どこかから
啓示を受けているわけでもありません。
私たちがいっしょに仕事をするうえでの
最低限の原則というのは、こうです。
「最良のアイデアが勝つ」
これは、ヒッピーの世界から残されたものです。
その意味で、シルク・ドゥ・ソレイユは
ヒッピーサーカスだと言えるかもしれません。 |
糸井 |
うん。いきなりだけど、
なにか秘密がひとつ、わかった気がする。
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ジル |
ああ、そうでしょうね(笑)。 |
糸井 |
ぼくは、日本にいたけれども、
同じ時代を経験していますから。
たとえばウッドストックのニュースを観たり、
音楽を聴いたり、映画を観たりして、
さまざまなヒッピー文化に
触れながら育ったんです。 |
ジル |
いま、おいくつですか?
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糸井 |
59歳です。 |
ジル |
私は58歳です。
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一同 |
(笑) |
糸井 |
ほとんど、同い年ですね(笑)。 |
ジル |
私は、ウッドストックには
行けなかったんですけどね。
アメリカに渡ろうと思ったんですけど、
すでに何百万人も人が集まっていて、
アメリカ側からノーと言われたんです。
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糸井 |
そうですか(笑)。
けれども、たとえば、
グレートフル・デッドの人たちは、
いまだにコミューンの形を保ったまま
世界を回っていますよね。
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ジル |
そうですね。 |
糸井 |
あれは別の
シルク・ドゥ・ソレイユとも言えますよね。 |
ジル |
ヤー(笑)。
当時は、コミューン自体がああやって
バンドとともに移動していくことが
めずらしくありませんでした。
そう、たとえばピンク・フロイド。
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糸井 |
ええ、ぼくも観ています。
ピンク・フロイドは日本にも来たんです。 |
ジル |
そうですか。
1960年代のグループは‥‥いやいや。
今日は、私たちよりも
若い人たちがたくさんいるんですから、
もっと若々しい話をしましょうよ(笑)。
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糸井 |
そうしましょうか(笑)。
でも、とてもよくわかったなぁ。
あの、シルク・ドゥ・ソレイユのなかに、
いまの時代と逆行しているイメージが
ときどき強く混じることがあるんです。
それは「ヒッピー」ということばを
ひとつ入れたら、全部、わかる。 |
ジル |
うん。それは、おそらく、
「世界を変える。よりよい世界をつくる」
という価値観でしょう。
たとえば、シルク・ドゥ・ソレイユは、
「水」に関する地球規模のプログラムに
社会活動として取り組んでいます。
それは、シルク・ドゥ・ソレイユが、
世界中でショーをすることだけではなく、
世界に水を供給するということを通じて、
この世界をもっとよくできると考えたからです。 |
糸井 |
なるほど。
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(続きます) |